研究課題/領域番号 |
22K13051
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 天理大学 |
研究代表者 |
大谷 歩 天理大学, 文学部, 講師 (40890059)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 木村正辞 / 万葉集 / 三辨證 / 美夫君志 / 漢文学 / 国学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究で対象とするのは、幕末から明治にかけて活動し、近現代の『万葉集』研究の礎を築いたと評される、木村正辞の『万葉集』研究である。特に『万葉集美夫君志』の成立過程の検討を通し、『万葉集』研究がいかにして江戸国学から脱却し、科学的な研究手法や視点を獲得したのかを問う。本研究は木村の学際的な研究姿勢や方法論を紐解き、近現代の『万葉集』研究は何を礎として出発したのか、そのプロセスを解明することを主眼とする。
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研究実績の概要 |
今年度は、木村正辞の「三辨證」(『万葉集文字辨證』『万葉集訓義辨證』『万葉集字音弁證』)の草稿本の調査を重点的におこない、出版および『美夫君志』との比較検討をおこなった。 8月に石川武美記念図書館所蔵の自筆草稿本の第1回調査と、東洋文庫所蔵の自筆草稿本の第2回調査を実施し、「三辨證」の出版本を基準にして初稿本と再稿本とにおける差異を確認した。『美夫君志』において利用頻度の高い『訓義辨證』と『文字辨證』を調査の中心とし、細かな書き入れ、修正箇所についても確認した。 昨年度と今年度に実施した「三辨證」の草稿本の調査結果をふまえて、①草稿本にのみ記載のある箇所、②草稿本になく出版本にのみ記載のある箇所、③草稿本・出版本・『美夫君志』すべてに記載のある箇所を整理し、その一部をデータ化して研究発表をおこなった。調査分析の結果、(ⅰ)天理図書館草稿本は訓義辨證刊行本に近い本文や修正箇所が多く、三稿あるいは印刷前の校正原稿と考えられること、(ⅱ)『美夫君志』は原則として「三辨證」の再稿本を元にしているとみられ、訓義辨證刊行本は『美夫君志』刊行後(校了後)に加筆・修正が加えられていること、(ⅲ)『美夫君志』の記述を検討するにあたっては、「三辨證」の出版本ではなく再稿本を重視すべきことが明らかとなった。 また、「三辨證」における『美夫君志』への収載状況の調査もおこなった。『訓義辨證』からの引用数が最も多いものの、「三辨證」全体の項目数に比して『美夫君志』に採録された記述は必ずしも多くない、という結果となった。『美夫君志』は巻1・巻2の注釈であるため、「三辨證」で考察したことを直接に活用でき得る歌が少なかったことが推測される。翻せば、『美夫君志』で語られなかった木村の『万葉集』および上代語の考察を知ることができるという意味で、「三辨證」の重要性は高まったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「三辨證」の草稿本の加筆・修正箇所が想像以上に多く、調査結果を整理し、比較検討できるようデータ化することに想定以上の時間を要している。そのため、今年度の後半から入力作業の補助を依頼することで遅れを解消するよう努めている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、「三辨證」の草稿本の調査についてさらに精密な分析をおこないたい。具体的には、①草稿本にのみ記載のある箇所、②草稿本になく出版本にのみ記載のある箇所について、木村がいかなる理由で取捨選択したのかを考察する。このことにより、木村が非とした、あるいは是とした『万葉集』および上代語の分析・方法論が明らかになるものと推定される。草稿本の調査の結果、該当する項目についてはすでに把握しているが、想定よりも該当項目が多く、計画的に調査・分析を実施したい。 加えて、『美夫君志』に引用された「三辨證」の記載内容をさらに複数検討することで、『美夫君志』の形成に「三辨證」の果たした役割を明らかにすることができるものと考える。こちらも該当箇所は把握済みであるため、上記の草稿本・出版本の比較・分析結果をもってこちらの分析・考察に着手する予定である。 また、昨年度今後の課題としてあげた木村の韻書の利用についての調査は、今年度は着手することがかなわなかった。木村が「三辨證」で使用した韻書の種類は把握できているが、具体的な写本系統・版本の種類の特定に至っていないものが多い。現在判明している範囲における木村の所蔵本の状況については大沼宜規氏の研究によってまとめられており、大沼氏の研究成果に照らしつつ、木村が利用した韻書の詳細について調査し、その傾向や利用方法についても考察したい。 草稿本と出版本の比較検討、『美夫君志』への影響関係、韻書の利用状況とその方法についての3点を中心に研究を進めていきたい。
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