研究課題/領域番号 |
22K13064
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02020:中国文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
伴 俊典 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (70507095)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 中国戯曲 / 江戸時代 / 日中文化交流 / 『水滸記』 / 『西廂記』 / 『琵琶記』 / 唐船持渡書 / 書入れ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は江戸時代に、限定された手段で伝わった戯曲の受容の実態を「書承」の面から明らかにする。 そのために江戸時代の中国戯曲受容の実態を網羅できる主要文献を選び、その中に記された日本人による演劇や舞台用語に対する注記や解釈、中国戯曲特有の形式に関するメモなどの整理と分析を行う。 各項目同士の関連、日中の戯曲文献の参照、輸入漢籍中の位置づけを明らかにし、日本人による戯曲テキストの進展の諸相の解明および特徴、水準を評価を行う。そして外国人による中国戯曲受容の学際的研究と連携するための成果公開に繋げたい。
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研究実績の概要 |
本研究の2年目は、所定の計画に基づき以下の活動と成果を達成した。 1『諺解校注古本西廂記』傍注および齣末注データの作成 慶応大学斯道文庫蔵『諺解校注古本西廂記』および国会図書館蔵『古本西廂記』の本文テキスト、および遠山荷塘によると見られる注釈、校訂、その他書き入れのデータを作成した。データは人間が目視するためのスプレッドシートに整理したデータを作成したが、データベースに登録するためのデータを別途準備する予定である。 2『釈琵琶記』の連綿体部分の翻刻およびデータの作成 『釈琵琶記』の本文と定本である六十種曲本『琵琶記』との校訂をおこなった。それと同時に和語解釈の入力とデータ整理を行い、テキストデータとデータベース用のスプレッドシートを作成した。 3中国での研究成果の発表 当初は研究発表も兼ねて中国各地の『西廂記』『琵琶記』『水滸記』の唱本の実地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症に対する安全確保のための情報が得られなかったため、現地渡航を断念し、論文を提出して後日発表することとした(2024年8月に中国中山大学より刊行される戯曲研究誌に掲載予定)。特にコロナ感染時の中国における外国人の行動制限が地方によって異なるため、各地を巡って唱本を収集する活動はリスクが高いと判断した。 3大阪大谷大学蔵『舶来書目』原本の調査・閲覧 1年目に江戸時代の戯曲収集者たちの文書資料を購入できなかったため、代替手段として輸入資料の公的記録と私的記録の比較を行い、江戸時代の受容状況の背景調査を行いました。これらの研究成果をもとに、国外研究誌に論文1本を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に研究対象に指定した三書のテキスト読解はおおむね良好であるが、『琵琶記』連綿体の翻刻については、さらに正確を期するため、今後も継続して検討を続けることとした。 研究機関の第2年目は、テキスト研究に加え購入した古文書の分析と、それによる日本における中国戯曲文献の国内流通の実情の把握を進める計画であった。しかし、それが実現しなかったため、代替の資料として大阪大谷大学所蔵『舶来書目』原本を通して政府が調査した『舶載書目』等の悉皆調査を行い、国内流通した書目中の中国戯曲書との差異を明らかにすることで、中国戯曲の江戸時代における国内流通の実情を明らかにすることとし、出張調査を行った。 この調査では、『舶載書目』が長崎の聖堂において行われた輸入書の全葉調査の記録に対し、国会図書館等が所蔵する『舶来書目』が市井に寓目した書目を記録している点に着目した。その結果、中国戯曲関連の著録に大きな差異があり、「死蔵された戯曲」と「活用された戯曲」の違いを明らかにすることが目的であった。今回、大阪大谷大学に『舶来書目』の原本が所蔵されていることを発見し、これまで断片しか残っていなかった国内流通を検分した戯曲書の書目の全貌が明らかとなったことで、『舶載書目』との比較調査が可能になった。 また、第三年目に予定している本研究業績のデータベース化に向けて、技術者と折衝を進め、どのような実現化が現実的かを検討している。 以上の研究成果により、日本国内における中国戯曲の受容状況について、より詳細な理解が得られると期待している。今後も引き続き、これらの研究を深化させ、さらなる成果を目指して努力していく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、第三年目に計画しているデータベースシステムの設計および構築、成果公開、ならびに三種の書入れの調査結果に関する成果物の作成に全力を注ぐ予定である。 データベースは本文と注釈を連動させ、同一の語の注釈の有無、注釈間の比較、リストの保存などを通して異なる作品間の比較を注釈本位で行うために設計を工夫し、本研究をさらに推進するための重要なツールとして運用・利用することを構想しており、現在その作成を進めている。 成果物については、日本における中国戯曲の受容に関して、三種のテキストに記載された語彙と唐話辞書・唐話学者の日記等に用いられる戯曲用語の解釈の差異を検討する方針を一部変更した。具体的には、輸入時における『舶載書目』等の舶載書の記述中にある中国戯曲の名目が、今回検討した『舶来書目』原本中にどのように記載されているかを調査した結果を中心にまとめる予定である。 特に、徳川家と幕府(紅葉山文庫に関する諸書目)、尾張徳川氏(『蓬左文庫御書物目録』等)における貴重書(主に宋~明版)とみなされた戯曲蔵書が死蔵された結果、市中には大量に輸入された清版の『西廂記』や『琵琶記』、比較的新しい清版の戯曲(清の俗曲や『水滸記』など清版の明伝奇)が出回った。この結果、中国における戯曲の流行・受容とは異なる受容形態を示し、特に雑劇や伝奇の相違を理解しないまま、いわゆる「唐土之芝居」として受け入れられた受容を明らかにする成果物をまとめる方針である。 これらの調査およびデータベースの構築により、日本における中国戯曲の受容状況について、より詳細な理解が得られると期待している。今後も引き続き研究を深化させ、さらなる成果を目指して努力していく所存である。
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