研究課題/領域番号 |
22K13118
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
濱田 武志 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (60772431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 漢語系諸語 / 系統論 / 中国音韻学 / 西夏語音韻学 / 対音資料 / 近世音 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、漢語系諸語(中国語の諸方言)の多様性を系統論的に捉え直すことを目指して、中国大陸の北方に分布する諸方言が系統的に独立した年代や、その独立初期の変種(北方基部変種)の音韻体系を明らかにするものである。本研究では宋元代に焦点を絞って、当時の漢語・漢字の対音資料(漢字で別言語の音を表記したり、漢字以外の字で漢語の音を表記したりした資料)を具体的な材料とした音韻史的分析を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究は、漢語系諸語(中国語の諸方言。単に「漢語」とも呼ぶ)の現生北方変種の系統が他から分かれたと推定される年代に近い宋代の北方漢語、とりわけ、西夏語・西夏文字と漢語・漢字の対音資料などから帰納される変種を「北方基部変種」と位置付ける。北方基部変種の音韻体系を正確に復元することにより、北方変種系統の成立の絶対年代や過程を解明することを本研究は目指している。 本年度は、宋代の漢語の言語音を反映した西夏文字資料(対音資料)の分析を更に深化させるべく、西夏語・西夏文字の言語音・字音の復元精度を高めることを目的として、西夏当時の学術である西夏語音韻学に基づき編纂された資料である『文海』が示す、西夏文字の字音情報等を通じて、西夏語音韻学の西夏語・西夏文字に対する分析方法そのものについて考察を行った。その結果、西夏語音韻学では、異なる調類間での韻目の合併という西夏独自の方法で字音を整理していた蓋然性が高いこと、並びに、西夏語音韻学自身が時代とともに変遷し、字音の整理方法が資料ごとに異なっていることを明らかにした。西夏語の音韻体系の復元方法の基礎が西夏語音韻学の資料にあることに鑑みるに、これらの成果が、個々の西夏文字の字音の推定結果に修正を求めることになる可能性があり、したがって、西夏文字資料が反映する宋代の漢語の言語音の推定にもまた影響を及ぼすと考えられる。 また、濱田(2019)で未解決となっていた、宋代またはそれ以前に北方変種から分岐した蓋然性が高い南方変種である「粤語・桂南平話」に見られる不規則的な通時的音変化の一つとして知られる、無声無気破擦音の鼻音化現象について、その発生機構の考察を行った。 以上の成果のうち、前者は論文1本にて、後者は学会発表1件にて公表している。後者については近日中に考察を深化させたうえで論文化する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『文海』の内部構造の分析を通じて解明し得た、西夏語音韻学の独自性と複層性という問題は、中国大陸の学術史と西夏語学の双方にまたがる巨大な主題の一端として位置づけることができる。北方基部変種の音韻体系の精密な復元という当初の目標に対して直接的距離を縮めたとは言い難いものの、しかし宋・西夏当時の学理の受容や伝播といった新たな問題系の発掘が進んだという点では、確かな進捗があったということができる。 また、漢語の南方変種である粤語・桂南平話における不規則的音変化の発生機構に関する考察は、当該変種に見られる特殊な通時的音韻現象が、粤語・桂南平話と北方変種との間の系統論的問題と関与しない蓋然性が高いことが確認できたという点で、本来の研究目標に向かって研究を深化せしめた成果ということができる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と同様、西夏語音韻学を反映する出土資料の分析を進め、西夏語音韻学の方法論に関する考察を続ける。それと同時に、現生の北方諸変種間の比較を通じて、祖形再建において詳細な議論が必要となる点を絞り込みつつ、北方基部変種の改新的・保守的特徴の解明を目指す。 研究開始当初の想定以上に巨大な問題系を発見したことにより、研究終了年度である次年度において、北方基部変種の音韻体系の特徴の精査が完了しない可能性があるが、しかし現今の研究方針を維持することで、漢語音韻史研究ならびに西夏の学術史的研究において一定の研究成果が得られる蓋然性が高いため、従来の方針の通り研究を遂行する。
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