研究課題/領域番号 |
22K13190
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 千葉経済大学 |
研究代表者 |
宗村 敦子 千葉経済大学, 経済学部, 講師 (20828355)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2026年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 南アフリカ / 農産物加工 / 産業教育 / 女性労働 / 産業学校 / テクニカル・カレッジ / 児童保護 / 技能育成 / 技能訓練 / 女性 / 知識経済 / 工業化 / アフリカ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は南アフリカの地域経済分析の中で「国外から持ち込まれた情報」を農村部にまで浸透するには何が必要なのか、という視点として、農村での女性への技能教育網が担った役割を明らかにしようとしている。「技能の供給論」とは工業化に伴う設備の刷新に対応できる女性が、どのようにして育成され工場に送り出されるのか、という工場外での教育システムを指す申請者の造語であり、知識経済と女性への技能教育の対応関係を1960年代前後の社会史として考察する。この研究は、女性職工の教育が工場における機会設備の入れ替えに対してどのように対応し、工場外でいかなる知識が伝達されたのかを知るためにテクニカル・カレッジに注目する。
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研究実績の概要 |
今年度は11月と2月の南アフリカ・西ケープ州での調査を行い、史料の収集および果物加工工場やその近隣地域でのフィールドワークを実施することができた。本研究題材にある「技能の供給」とは、女性の季節労働者が家庭で習得した家事能力を工場に応用させることで、労働集約的産業である果物缶詰加工工場を支えてきたとする従来の議論の再検討を目的としている。本助成ではむしろ、地域産業として西ケープの缶詰加工工場群が現れる直前に、工場予定地の周辺で「非公式な技能訓練の場」がさまざまに用意され、それらが女性労働者の訓練として提供されてきたことを明らかにしようとしている。 研究計画のなかでもっとも肝となるのは「農業と工場稼働の季節的な協業関係」を念頭において地域の生産カレンダーとその地理関係を再現することである。そこで今年度は収穫期の状況を確認しつつ、現地企業のアテンドのもとで工場視察や労働者・その責任者等への聞き取りを行った。工場ではどのように季節労働者がそれぞれの作業工程に配置・訓練されているのかを見聞し、その成果物として2本の研究ノート(うち一本は来年度に発刊予定)を書き上げることができた。 また現地エンジニアによる協力から、工場で使用された工業機械の輸入年代と、その性能についても正確に知ることができた。裏を返せば、いつ、女性職工たちの「人手による作業」が機械化されていったのかについての信頼のおける証言をようやく得られたと考えている。それを踏まえて今年度は、ハンダ缶詰作業が行われていた1920年代に、周辺の農場地帯の産業学校や農業学校でどのような講座が開かれていたかなどを検討した。今後は工場での「調理加工」の機械化が起き、サニタリー缶詰が一般的となる1930年代後半に、生産現場ではどのような摩擦と調整を引き起こしたかを考察したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究計画上もっとも難関な課題であった、現地の収穫期にあわせたフィールド調査を実施することができた。工場の稼働が農場での落葉性果実の収穫が始まってから半年間に限られるがために、農場での収穫開始と、その収穫を受けて工場での稼働準備体制が整えられていることなど、事前にさまざまな条件が揃わなければ訪問することが叶わなかった。昨年度の訪問で関係者への予備的な聞き取り調査を入念に行ったことが功を奏し、今年度は比較的スムーズに協力を得ることができた。 またフィールドワークからは缶詰工場立地とその周辺の労働者キャンプ・産業学校の場所等を確認し、簡易な地図を作成することができた。これらは、聞き取り調査をアテンドした企業の証言や先行研究での状況説明をより具体的に論証する、非常に重要な成果である。今後は聞き取り数を増やすことで、工場の責任者やエンジニアなどの証言のみならず、「技能の供給論」の核である女性労働者たちの経験を集めたいと考えている。ただし1930年代となるとすでに退職者の多くも逝去している可能性が高いことから、ある程度は当時の工場労働者の回顧録やそれについての先行研究、インタヴュー史料など、現地のアーカイブを手掛かりとしなければならない。一方で、それ以後については労働者キャンプの支援を行っているNGOや産業学校の現在の職員等に協力を求める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は極端な為替変動と航空費用の高騰のために渡航回数を少なくする一方で、上記の成果から得られたいくつかの課題について、入手した史料を整理しつつ必要に応じて現地調査を進める。 1) 1930年代に巻き締め(シーリング)用の工業機械が輸入されたことに伴い、製造コストをめぐる経営的判断がどのようになされたのかを考察すること。2)産業学校や農業学校で教えられた家政学の教科書を収集し、そのなかでのハンダ缶詰の作業の項目に注目して内容等を吟味する。とくにハンダ作業を女性労働者が行うことの意味づけを、当時の教科書の記述から読みこむこと。3)ハンダ缶からシーリング缶への切り替えと大量生産生が実現した際に、缶詰工場での労働配置がどのように変わったのかを整理すること。とくに缶の密封にとって加熱調理の工程が要であることは今年度の現地調査で明らかとなったが、調理人から調理機(Cooker)に切り替わったことで、それに携わる技術者がどこからどのように配置されたのかなどを、これまでの収集資料から明らかにする。 これらの課題は研究計画を立てた段階ではまだ明示的ではなかったが、概ね調査予定に変更を加えずに発展させられる見通しである。とくに年代と技能訓練の拠点となっている女子産業学校・農業学校の所在とその背景がわかったところで、さらに必要な史料を特定できるよう、資料やデータ等を整理する。 さいごに、研究成果はこれまでの2本の研究ノートを踏まえて1本の論文にまとめ、いくつかの研究会で発表をしつつ加筆修正を進める。現地調査のさいには、南アフリカ産業学校史の研究者とコンタクトをとり、助言を得つつ利用可能な史料を模索する予定である。
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