研究課題/領域番号 |
22K13195
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03020:日本史関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
TAO BO 千葉大学, 国際未来教育基幹, 特任助教 (30909263)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 賀川豊彦 / 協同組合 / アメリカ / キリスト教 / ネットワーク / 消費組合 / ロッチデール / マンチェスター / 世界恐慌 / 国際比較 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は世界恐慌期における日本の協同組合運動の思想及び実践の特質を浮かび上がらせ、同運動における賀川豊彦の立ち位置をグローバルな視点から解明することを目的とする。日本は欧米以外では最も早く近代的な協同組合運動が起こった国であるにもかかわらず、このことを系統的に研究することはこれまで提起されてこなかった。一方、賀川が提唱した協同組合運動は世界的に高く評価され、相互扶助・社会的連帯などの観点から、世界恐慌で激化したイデオロギー対立に一石を投じた。20世紀前半の協同組合運動の特徴や影響を国際的に検証することで、同時代における経済危機への対策だけでなく、現代の新たな世界的危機への示唆の獲得を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、近代日本を代表するキリスト教社会活動家であった賀川豊彦(1888-1960)が「生みの親」とされる日本の協同組合運動を対象とし、同時代の欧米の協同組合運動との比較研究を通じて、その思想的根源・特徴及び伝播の歴史を明らかにすることを目的としている。2年目にあたる2023年度では、1年目に実施した先行研究の整理および一次資料の収集をもとに研究報告を行い、論文で研究成果の発表を試みた。 2023年5月7日には東アジア文化交渉学会のパネルで賀川の平和運動と協同組合運動の関連性についての研究報告を行った。6月9日-10日は南山大学で開かれた、同大学宗教文化研究所が発行しているJapanese Journal of Religious Studies誌の50周年記念シンポジウムに参加した。ここでは宗教研究分野の多くの国内外の学者と交流をし、同誌の成り立ちや過去の傾向に対する理解を深めた。 9月12日には賀川豊彦記念・松沢資料館で資料調査を行ったほか、日本の宗教研究で数多くの著作を発表されているニュージーランド・オークランド大学のマーク・マリンズ教授と面談をし、研究に関するアドバイスをいただいた。12月23日には立教大学で朝河貫一の生誕150周年記念シンポジウムが開催され、朝河研究会のメンバーとして研究報告を行った。同報告では上記松沢資料館で収集した資料をもとに、1930年代のキリスト教ネットワークと日米関係について論じた。 最後に、賀川の協同組合運動のグローバルな展開を知るための資料調査として、前年度のイギリスに続いて、2024年3月10日-16日までアメリカでフィールドワークを行った。訪問先はトルーマン大統領図書館(ミズーリ州インディペンデンス)と南カリフォルニア大学(ロサンゼルス)であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度における進捗はおおむね順調である。 本研究の成果を、「賀川の協同組合運動とその国際的影響」というテーマの論文として『社会思想史研究』に投稿し、審査員の意見を参考に大きな修正も行ったが、最終的に不採用という結果になった。その主な理由は「思想分析が不十分」というものであった。同誌が社会思想史学会の学会誌であるため、思想分析の点が特に重視されたものであると思われるが、一方で「本論文は綿密な資料調査にもとづいており、その資料価値についても査読者は高く評価していた」という意見もあったので、今後さらに修正を加えたうえで、より適切な雑誌に投稿をする予定である。 その他の出版関連業務の進捗は順調であった。2023年10月にはハワイ大学出版社を通した外部審査の最終結果が告知され、前年度から執筆していた単著(Cooperative Evangelist: Kagawa Toyohiko and His World, 1888-1960)の原稿が受理され、同社と正式に出版契約を結ぶことが出来た。同書は2025年夏頃に出版予定である。また、2024年2月には上記朝河シンポジウムの内容をまとめた論文集を立教大学の『史苑』から発表し、同3月には松沢資料館発行の機関誌『雲の柱』より賀川の対米和平交渉を歴史的に比較検証した論考を発表した。 協同組合運動のグローバルな展開については、アメリカでの実地調査を行い、貴重な資料を入手することができた。特にトルーマン大統領図書館では賀川の1936年全米講演旅行に際して刊行された多くの宣伝物やその影響を物語る文書が見つかった。また、南カリフォルニア大学図書館では賀川の海外支援団体の成り立ちを詳述した資料や、賀川の逝去を受けて行われたロサンゼルスの牧師による説教の音声データを発見・デジタル化することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は今年度で最終年度に入るので、これまでの訪問調査や資料分析で得られた知見を整理し、学会での報告や雑誌での発表に力を入れたいと思っている。 今後の推進方策においては、(1)日本国内の協同組合運動の調査の継続、(2)戦前期の協同組合運動のグローバル・ストーリーマップの作成、(3)研究論文の公表及びその他研究成果の対外発信、という三つの方面に注力したいと考えている。 (1)日本における相互扶助的な経済組織の源流とされる大原幽学の先祖株組合を調査するという目標を昨年度の実施状況報告書で示したが、他の業務が忙しく実行に移すことが出来なかった。そのため、今年度の早い段階で大原幽学記念館への訪問を実現したいと考えている。そこで協同組合の伝統を探ると同時に、これまでの収集資料と合わせて、日本の協同組合運動のルーツに対する分析を進めたい。 (2)1年目に収集したイギリス協同組合運動の資料と、2年目に収集したアメリカ協同組合運動の資料と、日本の関係資料をまとめて、協同組合運動のグローバルな展開を整理するための第一段階として年表・タイムラインを作る。そして、第二段階ではそのタイムラインに沿って、ストーリマップを作成する予定である。 (3)『社会思想史研究』に投稿し不採用となった論文をさらに修正した上で、アメリカ学会の年報『アメリカ研究』、もしくはその他の適切なジャーナルに投稿したいと思っている。また、2024年7月7日に上智大学で開かれる国際学会(Asian Studies Conference Japan)のパネルで南カリフォルニア大学で発見した資料の報告をする予定である。その他に、地域レベルでの情報発信としては、7月27日に世田谷区・上北沢の賀川豊彦記念・松沢資料館が開催する「松沢フォーラム」でロサンゼルスの牧師が1960年に行った賀川に関する説教の音声データを紹介する予定である。
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