研究課題/領域番号 |
22K13220
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡野 翔太 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 招へい研究員 (40942412)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 華僑 / 東アジア / 日本 / 台湾 / 台僑 / 歴史認識 / 中華民国 |
研究開始時の研究の概要 |
在日台湾人に関する研究は、これまで在日華僑研究の枠組みで議論されてきた。その在日華僑研究はまた「二つの中国」による歴史認識の提示と深く関わりながら進展した。こうした日本居住の華僑を考える際に重要なこととして、台湾の存在をいかに捉えるのかという問題がある。なぜならば旧植民地出身の在日台湾人を「華僑」と呼ぶことそれ自体、植民地期から戦後日本という在日台湾人が経験した変化を象徴するものだからである。それは戦後日本の植民地の忘却と表裏一帯の関係にあった。 本研究では在日台湾人の脱植民地化の課題が、華僑研究の進展とともに歴史の彼方に周辺化してしまった問題点を浮き彫りにし、もう一つの戦後日本を提示する。
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研究実績の概要 |
既往の華僑研究は華僑の祖国を中国大陸とし、中国大陸と華僑の結びつきを自明のものとしてきた。日本在住の「華僑」を対象とした研究も同様である。しかし今日の日本で「華僑」と見なされている人びとのなかには、在日台湾人もいる。在日台湾人を「華僑」と名指してきたのは中国大陸や台湾の研究者だけでない。むしろ日本の研究者が戦後直後より在日台湾人を「華僑」と名状してきた。戦後の日本で在日台湾人が「華僑」と見なされ議論されてきたことは、戦後東アジア地域秩序の再編と無関係でない。そこで本研究では、戦後、日本在住のある存在を「華僑」と措定して記述し、その「華僑」の歴史を記述した知識人や政府・組織は、いかなる「華僑」像を人びとの前に示してきたのか。また「華僑」というカテゴリーの成立には、時代の制約の中で「華僑」を描こうとする歴史記述者によって不可視とされた存在といかに関わっていたのかを明らかにする。 2023年度は研究の初年度として、(1)台湾における史料調査、(2)日本における史料調査、(3)日本での聞き取り調査、(4)本科研のテーマと関連あるいは隣接する領域の研究者との合同研究会を実施した。(1)については中央研究院近代史研究所で、中華民国政府の戦後日本の対華僑政策を記した外交部档案などの関係史資料を収集した。(2)としては国会図書館、外交史料館で史料調査を実施した。(3)では関東や関西の華僑関係者への聞き取り調査を行った。(4)については、戦後の日本や台湾で構築された歴史認識の特徴を検証するため、歴史学や人類学を専門とする若手研究者を中心とした研究・議論の場を持つべく研究会を実施した。今年度は2022年6月29日に大阪大学で松葉隼氏が「現代日本で振り替えられる日本統治期台湾の交通史」、同8月24日に金城学院大学で呉穎濤氏が「失われたアイデンティティを求めて」と題した研究報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は国会図書館、外交史料館、神戸華僑歴史博物館、そして台湾の中央研究院近代史研究所の所蔵資料を収集しつつ、聞き取り調査を行った。 とくに1952年に横浜中華学校が中華人民共和国派と中華民国派に分裂するきっかけとなった王慶仁に注目した。王は中国東北部出身で、満州国時代を経験し、第二次国共内戦によって台湾へと渡った人物で、彼の軌跡を辿りながら、中華民国政府が王をはじめとした中国東北部出身の台湾外省人を通して在日華僑組織に関与しようとしたことを明らかにした。この成果は2023年3月に刊行された陳來幸編『冷戦アジアと華僑華人』(風響社)に論文として収録された。 上記と並行して、1972年の日中国交正常化/日華断交後の在日中国人や台湾人団体に関する史資料や団体機関誌の収集・整理を行った。これまで、第二次世界大戦後の在日中国人や台湾人の処遇やその関連組織の役割に関しては、1945年から1950年代ごろの動向分析に力点が置かれてきた。その反面、日中国交正常化/日華断交後ついては十分に研究が進められていない。日華断交以前、中華民国政府は国交を背景として、中華人民共和国派の華僑組織の瓦解を試みていた。日中国交正常化が実現すると、今度は中華人民共和国支持派の華僑組織が中華民国派組織の瓦解に向けて行動を起こす。このような問題意識のもと、1970年代以降の中華人民共和国派華僑組織の活動を明らかにしつつ、中華人民共和国派の主張に対して中華民国派が示した反応を示した。この点については、2023年3月に刊行された三好恵真子・林礼釗・吉成哲平編『この50年の歩みを共に考える』(大阪大学中国文化フォーラム)所収の論文で初歩的な検討を行った。 他、本科研主催で若手研究者の研究会を実施し、主に歴史学や人類学を専門とし、アジアをフィールドとする同世代の研究者と交流を深めた(研究実績の概要を参照されたい)。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、日本国内では東京、横浜などで史料調査・聞き取り調査を実施する予定である。また2024年度中に「名古屋とアジア」をテーマとした書籍を共編著で刊行する予定であり、名古屋でも調査を行う。海外では引き続き台湾の中央研究院近代史研究所で調査を実施し、国史館や档案管理局にも赴く。 若手研究会についても2023年度中には2~3回程度実施し、本研究課題に関連する知見の提供を受けていく。 今後は収集した機関紙や外交部档案などの史資料が作られた背景についても考察し、ひとまず戦後冷戦初期の在日華僑メディアについての論文を執筆したい。
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