研究課題/領域番号 |
22K13234
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
押尾 高志 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40869088)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | モリスコ / 信仰秘匿 / アルハミーア文献 / 旅行記 / 異端審問 / アンダルス / マグリブ / 改宗 / アルハミーア / 西地中海 |
研究開始時の研究の概要 |
イベリア半島に居住したムスリムの末裔であるモリスコは、16世紀前半のカトリック信仰への強制改宗以後、新キリスト教徒としてカトリック信仰を国家統合の要とする近世スペイン社会に適応する必要に迫られた。本研究では近世西地中海地域における改宗というより広い歴史的文脈にモリスコを位置づけ直し、モリスコ由来のアラビア語・スペイン語史料に加えて、アルハミーア史料(アラビア文字表記スペイン語史料)を分析対象とすることによって、イスラーム・キリスト教両信仰の境界を、様々な要因から往き来したモリスコ集団の宗教的文化的多様性が、いかなる実態をもって現れるのかを実証的に解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、昨年度の現地調査で得た史料(主に異端審問記録)の整理およびデジタル化を上半期に行った。また、6月26~29日には、オンラインセミナー「Reading Aljamiado Manuscripts」に参加した。講師は、アラビア語写本とアルハミーア文献研究を専門とするNuria de Castilla教授(Ecole Pratique des Hautes Etudes所属)で、アルハミーア文献研究の第一人者であるCastilla教授から史料読解の講義を受けることができた。 続いて、11月には九州西洋史学会にて研究報告を行った。本報告は、モリスコによるイスラーム信仰の秘匿/偽装を支えた宗教的理論であるタキーヤについて、先行研究とその論点・問題点を整理し、関連史料の紹介を行うことを目的としていた。本報告では、モリスコ由来の史料(アルハミーア文献など)と、異端審問記録やカトリック教会関係者の著作を照らし合わせることで、より実態に即したモリスコの慣習を析出することができる可能性を指摘した。本報告内容は2024年度中に論文としてまとめ、投稿する予定である。
3月にはスペインでの史料調査を実施した。今回の調査でも、昨年に引き続き国立歴史文書館にて、異端審問記録のトレード管区およびサラゴーサ管区の記録についての調査を中心に行った。これに加えて、スペイン科学研究高等会議(CSIC)の人文社会学研究拠点に2023年から所属するアルハミーア研究者のPablo Roza Candas教授とも面談し、最新のアルハミーア研究状況についての情報を得た。彼が研究を進めているメッカ巡礼記の形をとったアルハミーア文献は、今後更なる研究の進展が期待されている史料であり、報告者も今回の史料調査からの帰国後に、同史料に関する研究報告を東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、現地史料調査で収集した史料をもとにした研究報告を2件行うことができた。また、3月に実施したスペインでの史料調査では、昨年に引き続き、国立歴史文書館を中心に、異端審問記録の調査・収集を行った。前回の調査では、Covid-19のパンデミック後に変更された施設の開館時間や利用方法などに慣れることに時間を取られたが、今回は比較的スムーズに調査に入ることができた。そのため、収集できた史料の数は前回よりも大幅に増加したほか、今回も、モリスコからの押収物として異端審問記録に一緒に綴じられたアラビア語の小写本をあらたに数点確認することができた。これらの分析を進めることで、イスラーム信仰が法的に禁じられた状況下で、モリスコが秘密裏に伝達・保存していたイスラーム知識の一端が明らかになることが期待される。 本年度の研究で特筆すべき点は、アルハミーア文献研究者との研究交流である。オンラインセミナーではあったが、Castilla教授からアルハミーア写本の読解方法やアラビア文字からラテン文字への転写方法などの指導を受けられたことは、報告者の研究能力の改善にとって非常に有用であった。 また、CSICの人文社会学研究拠点のRoza Candas教授との面談のなかで、最新のアルハミーア研究状況について、とくに彼が研究を進めているメッカ巡礼記のあるはミーア写本の所蔵状況や閲覧可能性について詳細な情報を得ることができたことは、本研究の進展にとって重要であった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度以降の円安の影響は深刻で、スペイン・モロッコでの史料調査を同時に行うことは予算的にも難しかったため、モロッコにおける文献調査と意見交換を目的とする海外渡航については、2024年度に実施予定である。これに先立ち、モロッコの現地研究者とのメールなどを通じた研究交流を継続して行い、調査前の入念な準備を行う。 また、Roza Candas教授から情報提供を受けたメッカ巡礼記のアルミーア写本については、サラゴーサの文書館に保管され、閲覧が可能であることが判明しているため、モロッコでの調査と合わせて文献調査を、たとえ短期であっても実施したいと考えている。 これらに加えて、2022・2023度のスペインでの調査で収集した、異端審問記録やそこに含まれていたモリスコ由来のアラビア語小写本・紙片についても校訂・分析を継続して行い、2023年度に行った研究報告については論文化することを目指す。
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