研究課題/領域番号 |
22K13247
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04010:地理学関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
佐々木 夏来 中央大学, 理工学部, 助教 (40823381)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2026年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 山岳湿地 / 涵養水 / 蒸発散量 / 第四紀火山 / 火山地形 / 積雪量 / 地下水 / 気候変動 |
研究開始時の研究の概要 |
近年の温暖化は,気温の上昇だけでなく,積雪量の減少や融雪時期の早期化として山岳地域の生態系に影響を及ぼすと考えられる.これまでの奥羽山脈での研究で,湿地の主な涵養源は融雪水,周辺斜面からの浅層地下水,比較的広域からの地下水と多様であることが明らかとなりつつあり,湿地の成立条件で気候への応答性が異なる可能性を示唆する.本研究では,日本全国の第四紀火山に対象地域を拡大して,山岳湿地の成立環境を地形,気温,積雪,降水量などの説明因子を用いて解析して山岳湿地の類型化をおこなう.さらに,複数の時空間スケールで,湿地の変動(出現,消滅,面積縮小)の気候への応答性について,類型化したタイプごとに解明する.
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研究実績の概要 |
日本の第四紀火山を対象とした湿地データベース作成では,選定した89火山のうち30火山で湿地(自然状態の湖沼と湿原)の認定を完了した。これまでの作業で,火山毎の湿地密度は,積雪量,山地斜面の侵食や地すべりによる解体の程度,傾斜量,重力変形等で生じた凹地形の有無と大きく関係しているだろうとの仮説を得た。さらに,緩やかな斜面を覆うように形成された湿原では,泥炭の侵食が湿原の乾燥化と面積縮小に大きく寄与しているだろうとの考えに至った。 苗場山の溶岩台地上に位置し,標高の異なる2つの湿原(山頂近くの苗場山湿原と山麓の小松原湿原)を対象として,2020年度から,泥炭層中の深度8 cmと4 cmにおける土壌水分量と電気伝導度,地上5 mでの気温を観測しており,2022年に観測データを回収した。両湿原ともに深度8 cmの土壌水分特性変化は積雪の有無に対応し,深度4 cmのデータは積雪のみならず降雨にも応答していた。電気伝導度の変動結果から,小松原湿原では多量の地下水供給が湿原を涵養している一方,苗場山湿原は天水涵養が主体であると推定された。これまでの研究で,八幡平火山南部の高標高域の湿原では,融雪完了後,降雨に応答して土壌水分量が大きく変動することが確認されたが,苗場山湿原は年間を通して土壌水分量の変動は非常に小さかった。苗場山湿原の調査地周辺では緩やかな凸地形となっているため,堆雪や湛水に有利な地形ではない。そこで,気温の日較差データから,土壌表面の蒸発散に関連する指標の一つとして全天日射量を推定したところ,無積雪期を通して苗場山湿原では小松原湿原よりも日射量が少ないという結果を得た。つまり,苗場山湿原の維持には,山頂付近での局地的な曇天(もしくは霧や降雨)によって蒸発散量が抑制されていることが重要であるとの結論を得た。本研究の内容を,2022年10月の日本山の科学会秋季大会にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
湿地データベース整備の作業で特に大きな遅れが生じている。当初の予定では,2022年度中に作業を完了する予定にしていたが,現状では,全体の1/3が終了しているに過ぎない。複数の火山では,泥炭層の薄い火山荒原と湿原の区別,自然状態の湖沼と溜池の判別が非常に難しく,多時期の空中写真で確認が必要だったことから,湿地認定作業に想定以上の時間を要した。さらに,当初は標高500 m以上,湿地面積500 m^2以上の湿地を対象とする予定だったが,山岳湿地の特徴である小規模湿地を捕捉できていない可能性が生じたため,認定基準を面積200 m^2に変更し,作業時間が多くなった。 また,湿地面積の季節変動を明らかにするため,安比高原でUAVを用いた写真測量を予定していたが,悪天候が続いたこと,調査人員確保が困難だったことから現地調査を断念した。
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今後の研究の推進方策 |
湿地データベースの整備で遅れがあるものの,現在の湿地認定の基準に問題はないと考え,今後も継続的に作業を進めていく。その後,決定木解析の手法で湿地形成場の特徴を明らかにするにあたり,湿地分布との関係があると推測される「山地斜面の侵食の程度」「重力変形等で生じた凹地形の有無」をどのように説明変数に置き換えるべきか,検討する必要がある。 苗場山など複数の湿地での現地踏査や,上述の湿地認定作業を進めるうちに,湿原の面積縮小には,気候変化だけでなく,泥炭層のガリー侵食の発達にともなう排水の促進が大きく関係していると考えるようになった。気候温暖化に伴って降雨強度および豪雨頻度が増すことは,泥炭地の侵食を促進するとの指摘もなされている(Li et al., 2018, Earth Science Reviews journal)。山岳湿地は斜面上に形成されていることが多く,侵食が進行しやすい条件下にある。したがって,今後は,湿原内のある1点で土壌水分特性を観測するだけでなく,湿原の土壌水分分布とガリー侵食の発達状況を面的にとらえるような調査も追加する予定である。
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