研究課題/領域番号 |
22K13271
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
平野 智佳子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (90889586)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 遊動 / オーストラリア / アボリジニ / 飲酒 / 狩猟採集 / トラブル / 先住民 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、オーストラリア中央砂漠に暮らすアボリジニ、とりわけアナングの人々を対象に、彼らの飲酒トラブルがどのように発生し解消されるのか、もしくは解消されないのかを、民族誌的調査に通して明らかにする。従来の研究は、飲酒による健康被害や暴力、虐待の問題がアボリジニの気質によるものではなく、植民地主義の負の影響によることを指摘した。これらの研究は先住民社会に酒を導入した非先住民社会の責任を追及する点で重要であるが、先住民社会の飲酒トラブルの内実について十分に検討していない。そこで本研究は現地社会でトラブルの引き金になると語られる遊動に注目し、遊動が飲酒トラブルの発生と解消に及ぼす影響を検討する。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、オーストラリアの中央砂漠に暮らす先住民アボリジニ、とりわけアナングを自称/他称とする人びとを対象に、彼らの酒をめぐるトラブルがどのように発生し解消されるのか、もしくは解消されないのかを、酒の獲得に不可欠な「クルージングcruising」と呼ばれる遊動に焦点をあて、明らかにすることである。 上述の目的を達成するために、第2年度は2023年7~8月および2024年2月~3月にオーストラリアの中央砂漠の地方都市アリススプリングスを中心に実地調査をおこない、酒関連のトラブルが原因で刑務所に服役した経験のあるアナングの人々に逮捕時の状況や刑務所での生活、また出所後の人間関係に関する聞き取りをおこなった。 これまでの研究では、人々が規制をかわして、酒を入手していく過程が明らかにされてきたが、飲酒トラブルの発生から解消にいたるまでの過程については十分に議論されてこなかった。この点をふまえると、当該年度の研究の意義は、刑務所での経験が出所後のアナングの人々の暮らしにどのような影響を与えているかを検討するための具体的な一次資料を得た点にある。これらの一次資料は、オーストラリアにおいて国家的課題となっているアボリジニの問題飲酒の内実を現地の文脈から読み解くために必要不可欠な情報である。また、アボリジニにとっての適正な問題飲酒への対応、そしてそれを実現するために必要とされる条件や配慮を検討する上できわめて重要な資料となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オーストラリアの中央砂漠では、2022年の地方都市アリススプリングスにおける飲酒規制の緩和にともない治安の悪化が進み、先住民の過剰飲酒がますます問題視されている。こうした状況下で、飲酒トラブルをいかに解消するかがアナングの人々の間で大きな関心事となっている。そのため、本研究のテーマについて、現地住民と継続的に話し合いの場を持つことができている。 また、本研究では刑務所での暮らしなど、センシティブな話題を扱うが、調査拠点の先住民コミュニティの人々との信頼関係は良好であり、聞き取り調査への協力が十分に得られている。さらに調査者は、先住民コミュニティや都市、ロードハウス間の現地住民の移動に同行し、寝食をともにするという調査方法を選択しているため、元服役者やその家族・知人など様々な立場の人々の語りを自然なかたちで幅広く記録することができている。 以上の理由から本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
オーストラリアの中央砂漠の地方都市アリススプリングスでは、2024年3月、市内中心部で起きた先住民の若者たちによるパブ襲撃事件をきっかけに、北部準州政府が治安悪化への打開策として、市内中心部における夜18時から朝6時までの18歳未満の若者の外出制限を施行すると発表した。当初、この対応は一時的なものであることが強調されたが、その後も延長を繰り返している。この事件の様子はSNSで拡散され、オーストラリア全土でも大きく報道されており、家庭内暴力や失業、アルコール依存など先住民が直面する困難への対処について連日、活発な議論がおこなわれている。この夜間外出禁止令をめぐり、先住民への偏見や監視が強まっていることから、先住民、特に若者たちの反発を生み、刑務所や青少年拘置所の収容率を高める可能性が高い。これらの新たな変化に留意しつつ、来年度も計画どおり、文献検討および現地調査を継続する。
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