研究課題/領域番号 |
22K13284
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05020:公法学関連
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研究機関 | 同志社大学 (2023) 早稲田大学 (2022) |
研究代表者 |
川鍋 健 同志社大学, アメリカ研究所, 助教 (90845661)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 裁判官選定罷免手続 / 裁判官の民主的正当性 / 日米比較研究 / 人民主権 / 憲法 / 比較憲法 / アメリカ憲法 / 裁判官の独立 / 裁判官選挙 / 国民審査 / アメリカ / 日米比較 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、日米の裁判官選定罷免手続を比較研究する。従来日本において裁判官が必ずしも民主的な公職ではない、という認識があることが研究の背景にある。これに対して本研究は、憲法上の裁判官選定罷免制度をめぐる状況からは、むしろ裁判官が国民に対して答責性を有する公職であるし、そうであるべきことを明らかにすることを目的とする。この研究は、制度としては民主的な日本の裁判官選定罷免手続が、その運用にあたって形骸化している原因として、 国民のなかでの裁判官人事に関する情報の流通が少なく、裁判官が判決を下すにあたって国民の考えに沿おうとするインセンティヴが働かない、という問題とその解決策を示す、という意義がある。
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研究実績の概要 |
本年度は、アメリカの州裁判官の選定罷免手続はどのようなものか、をテーマに研究活動を進めた。一部の州では連邦裁判官と類似した裁判官任命制(知事や州議会が裁判官を任命する)を採用しているが、多くの州では、裁判官選挙制、あるいは裁判官任用制を採用しており、罷免手続としてリコールや州民審査制をおいている。その理由として、裁判官も民主的答責性の求められる公職だ、という考えが州民に共有されているからだ、という仮説を検証することを目指した。 アメリカ憲法学では、司法及びその担い手たる裁判官の独立の観点から、裁判官選挙制が裁判官の身分保障を危険に晒すものとして問題がある、との議論があった。その一方で、人民主権論、あるいは裁判所の憲法解釈に対する主権者人民の憲法解釈の優位性を説こうとする人民立憲主義にとっては、①選挙が主権者人民の意思表明の重要な機会であり、②裁判官の主権者人民に対する答責性を担保するものである、との議論もあった。また、③選挙は有権者が望まないような現状変更を裁判官が行おうとすることを防ぎ、支配的な法的レジームを有権者が強く支持する見解に方向づける、とされ、④選挙を通じて裁判官が個々の問題に関する見解を明らかにすることが公共討議の促進に繋がり、⑤州憲法の条文や裁判所の憲法解釈がどのようなものかを有権者に教える機会にもなる、として裁判官選挙制の有用性を説く議論も有力に展開されていた。 これらの議論に対しては、裁判官に対して民主的な責任を何ら負わせないとすれば、司法権を含む国家権力の統制としては問題があることを指摘した。また、実践的には、いまの裁判所にどれほど少数者の権利擁護という視点での判決が下されているのか、むしろ多数決に基づく民主的政治過程の方が、紆余曲折はあっても少数者の権利を擁護する方向を示す場合も、アメリカの場合多いのではないか、ということも指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に関する内容について、直接には次の業績で検討した。川鍋健「なぜ、アメリカ憲法学、そして人民主権論か」、関西憲法判例研究会、関西学院大学、2023年12月。 また、本研究の研究課題に関わって、アメリカにおける裁判官選定プロセスのイデオロギー化とそれに伴う裁判官のイデオロギー分極化の問題の検討として、川鍋健「なぜ、アメリカは参照されるべきか:文献報告:三牧聖子『Z世代のアメリカ』、NHK出版(2023年) 」、アメリカ憲法の理論と実践に関する研究会第1回読書会、一橋大学、2023年9月。日本の最高裁裁判官国民審査制に関する憲法解釈についての検討を含むものとして、川鍋健「憲法学の社会科学化へむかって」、一橋法学22巻3号(2023年)、125頁以下。 また、2023年度には裁判官選挙制の研究者である、コロンビア大学ロー・スクールのデイヴィッド・ポーゼン教授にインタビューし、アメリカにおける裁判官選挙制の歴史的、理論的位置付け、日米比較の観点からの日本の裁判官選定罷免手続への示唆についてインタビューを行った。特に裁判官の独立に対する裁判官選挙制の脅威は、任期制とその期間の身分保障で十分達成しうることについて、示唆を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、アメリカの場合と比べての日本の裁判官選定罷免手続の問題を検討する。例えば、個人の来歴などについては裁判所ホームページなどに情報があるものもあるが、その発信が十分に国民に届くようなアウトリーチとなっていなかったり、どの裁判官がどのような考えに基づいて判決を下しているかについての情報が少ない、といったことがある。これら裁判官に関する情報が広く国民の間で共有されることにより、国民のなかで裁判官人事に関する関心が高まることが期待される。日本の問題と改善方策を、日米比較の手法から検討したい。 また、日本の裁判官選定罷免手続の紹介、長短の検討を英語業績(研究報告、論文等)で行っていきたい。現在アメリカ憲法学、比較憲法学の観点からこれまでの科研費課題に基づく研究業績に対する関心を海外の研究者から示してもらっており、海外の研究者との意見交換を踏まえながら研究を推進していきたい。
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