研究課題/領域番号 |
22K13307
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
橋本 伸 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (20803703)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | パーソナルデータ / 譲渡可能性 / 個人情報漏えい / 損害 / 利益吐き出し / 原状回復法 / 不可譲渡性 / 人格権 / 所有 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、現代社会において現れつつある、譲渡性を当然の前提とする物とは区別された、《人格的な性格を有する物》の譲渡可能性の問題について検討することを通じて、所有法を再検討することを目的とする。具体的には、身体やその部位であるヒト由来物質など、その帰属者との間に《人格的な繋がりのある物》については、財産的価値がある物も多く、譲渡性を認める要請がある一方で、そのような譲渡性を認めることによる弊害(人格の商品化問題など)もある。そこで、こうした物の譲渡可能性を認めることの当否について法学のみならず、隣接学問領域の知見を用いつつ、多角的に検討することを通じて、所有法を再考する。
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研究実績の概要 |
本年度は、パーソナルデータの譲渡可能性に関する理論的考察を行った。具体的には以下の通りである。 第1に、わが国におけるプライバシー・個人情報をめぐる議論状況を確認するために、古典的な問題(メディアによるプライバシー侵害から自己の情報の流出・漏えいの問題)から現代的な問題(ビッグデータやAIによる情報の利活用問題)について、従前の判例・学説を整理した。その中で、企業による個人情報漏えいに際して、詐欺など現実の損害が生じていない段階(不快感)で被害者に損害賠償(特に「損害」)を認めるのに抵抗の少ない判例の立場に対して、疑問を提起する見解が少なくないことを認識した。
第2に、アメリカにおける “data breach”に関する議論を考察した。彼地では、個人情報漏えいに関して「損害」要件が、判例において手続レベルおよび実体レベルの双方において限定的に解されているのに対し、今日の情報化社会において再検討する余地があるとして、抽象的なリスクの段階で「損害」要件を認める立場が有力に主張されていることを確認した。
第3に、上記の対立の中で、本研究は、アメリカにおいて被害者の「損害」要件を正面から乗り越えるのではなく、加害者が得た「利益」(約束したセキュリティー措置を実施しないことにより節約した利益や本人の同意なしに個人情報を売却することにより得た利益)に注目し、原状回復法を用いて被害者救済を試みる見解に注目した。この立場は、個人情報の保護を公的機関の執行に委ねるのでは不十分であり、私的執行が不可欠であるとし、その手段として上記の方法を説く。このような保護がいかなる意味を持つかは、さらなる検討が必要であるが、本人が自己の個人情報をいったん譲渡したとしも、本人の知らないところで当初予定されていない形で利用されることを止める権利が本人に留保されているとみる余地があるように現段階では思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、パーソナルデータの譲渡可能性に関する理論的考察をアメリカ法を参照しつつ検討することに取り組んだ。もっとも、当初はより正面から譲渡可能性の可否を検討するアメリカの文献を講読することを予定していたが、その前提作業としてプライバシー・個人情報に関するわが国の状況を確認しておく必要性があったため、そちらを先に実施した。 しかし、その結果として、個人情報の漏えいにおける被害者の「損害」の取扱いをめぐる日米の対照的な状況(しかも、両国において学説が自国の判例の立場を批判する状況)を認識し、いまだこの問題を再検討する余地があるとの示唆を得ることができた。またこのような中で、両者の中間的な立場として、原状回復法による保護を志向するアメリカの学説に接した。そこでの議論から、パーソナルデータの特殊な取扱い余地があるとの示唆を得ることができ、成果としてまとめることができた(拙稿「アメリカにおける個人情報漏えいの被害者保護に関する新たな動き(1)――原状回復法による保護をめぐる議論を中心に」商学討究(小樽商科大学)74巻1号(2023、近刊)。全3号の予定)。以上の理由から、上記のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、以下の2点を中心に研究を進めていくことにしたい。 第1に、プライバシー・個人情報の譲渡可能性に関する理論的考察である。本年度得た得た原状回復法による個人情報被害者保護に関する研究の成果の公表を進めていくことに加えて、これらの譲渡可能性をめぐる直接の議論についてよりアメリカ法学の議論に立ち入って考察を加えていくことにしたい。 第2に、考察対象を拡大するために、身体やその部位(臓器・血液・精子・卵子・受精卵など)の譲渡可能性に理論的な問題について、同じくアメリカ法学を参照しつつ、検討を加えることとしたい。 もっとも、本研究の対象は広範であることから、講義やゼミなどで関連するテーマを取り上げ、関連するテーマの考察も進める形で効率的に研究を進めていくことにしたい。
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