研究課題/領域番号 |
22K13309
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05060:民事法学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
吉原 知志 大阪公立大学, 大学院法学研究科, 准教授 (70805308)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | マンション法制 / 管理組合 / 都市法 / 決議訴訟 / 建築請負契約 / 不動産 / 建物 / 公法 / 私法 / 法政策 / 制度設計 |
研究開始時の研究の概要 |
不動産は、私人の取引の対象であるとともに開発規制・環境保護など社会公共的な関心の対象でもある。そのため、不動産法制は公法と私法の交錯領域となっており、両者を横断する見地から考察する必要がある。特に今日、空き家や所有者不明土地など所有者の管理が行き届かない不動産について公的機関の関与が求められている。しかし、従来、公的機関や一定の利害関係者が不動産の管理に積極的に介入して私人の権利に影響を及ぼす法制度を、基礎的視点から扱う研究は乏しかった。また、新たな政策を法理論的に扱うことも少ない。そこで、本研究は、不動産に関わる法体系を公法私法横断的な見地から考察しつつ、実効的な法制を構想していく。
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研究実績の概要 |
本年度は、マンションを中心に不動産に関わる私法関係を公法的観点を交えて捉え直す作業に従事した。 マンション法の研究は、公法研究者、実務家と共同研究の場としている「マンション法制研究会」での報告・議論を通じて行った。本年度の成果は大きく3つの項目で得られた。第1は、管理組合の性質を自治体の取り組みや条例との関わりから考察する研究であり、私人の団体である管理組合が管理適正化に対する公的関心の受け皿となる可能性を示した。第2は、マンション法制の法体系全体の中での位置付けを探る「都市法としてのマンション法」と題する研究であり、従来私法の中に位置付けられてきたマンション法を、老朽化による公的関心の深まりから積極的に公法領域にも組み込んでいくことの必要性と可能性を示した。第3は、管理組合の運営方法の基本である決議制度について、成立手続や内容に瑕疵がある場合の効力の争い方に関する研究であり、規定の整備が進んだドイツ法との比較を通じた考察を行い、「決議訴訟」と称する集約的な争訟システムを採用する可能性を示した。この考察は「関西民事訴訟法研究会」で報告し、民事訴訟法の研究者からの意見を得ることができた。 本年度は、不動産に関わる私法関係として建築請負契約に関する研究にも取り組んだ。建築請負契約に基づき請負人が製作した建物の所有権は、請負人に帰属してから引渡しにより注文者に移転するのか、それとも注文者に原始的に帰属するのか、という古典的な民法学の論点につき、後者の注文者帰属説の立場を補強する立論を行い、「大阪公立大学民法研究会」で報告し、研究ノートとして成果にまとめて公表した。考察の結果、従来の議論には当事者の意思、あるいは物権法の諸規範に拘泥しすぎた欠点があり、不動産、とりわけ土地と建物を別個の不動産と解する日本民法を前提とした建物の性質に着目する必要性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、初年度は借地借家法と都市計画法の関係を取り上げることとなっており、扱う法律からすると考察内容に食い違いが生じているように見られるかもしれないが、以下の理由から本研究課題の進行としては問題なく進んでいると考えている。 借地借家法と都市計画法の関係に関しては、次年度にマンションの借家権が建替えの障害となるかという論点と絡めて検討する予定である。この研究については報告ないし公表の予定があり、当初の予定項目は順調に進んでいる。 また、マンション法制が大きく取り上げられていることも、借地借家法、都市計画法との関係が一見して明らかでないようだが、本研究課題「不動産法制における公法私法関係の変容と法政策的課題」のテーマは不動産法制を広く取り上げて、公法と私法の関係を見直し、どのような法制度にしていくべきか政策論を交えて検討していくことにあり、借地借家法、都市計画法はその中で住宅法に関連する重要法分野として扱うことを予定していた。住宅法に関連する重要法分野としてはマンション法も含まれることは異論の余地がなく、また、マンション法は現在、公法と私法の関係が大きく取り上げられている分野でもある。そして、住宅法という領域で見れば、上記の借家権の問題のように、マンション法と借地借家法の交錯する問題にも注目が集まりつつあり、総合して検討していく必要性が増している。 本年度の研究は、以上のような不動産法制の現況に鑑みて、次年度以降の様々な広がり方の布石となる問題発見的な報告・議論・論説の執筆がされたものと位置付けられる。したがって、本研究課題としては初年度として十分な成果を得られたものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず、マンションの借家権が建替えの障害となるかという論点を通じて、研究計画記載の借地借家法・都市計画法に関わる研究を行う。区分所有法の改正審議が現在進行形で行われており、これを参照しつつ、賃借権の基礎に立ち返った問題の分析を行うことを主たる目標とし、これを明らかにする過程で都市法の視点からの分析も加えることにしたい。 また、これに加えて、民法の共有法理に関する基礎的研究を進めることも予定している。共有法は私法の規律だが、団体法と連続的な位置にあり、また、権利者間に高度の相互調整が求められること、不動産の管理に関わることなどから公法領域との接点も増えている。そのため、民法の基礎理論を明らかにする作業を進めることは、本研究課題の遂行のためにも非常に有益な作業となる。具体的には、これまで担当したいくつかの判例研究、新法解説の内容を題材に、共有関係上の主張規律について若干の整理を行うことを予定している。
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