研究課題/領域番号 |
22K13316
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分05070:新領域法学関連
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 詩衣菜 聖学院大学, 政治経済学部, 准教授 (80780121)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 国際環境法 / ラムサール条約 / 条約の国内実施 / 実効性の確保 / 多数国間環境条約 / 実効性 / 履行確保 / 非拘束的文書 / 協働 |
研究開始時の研究の概要 |
国家は、国際社会が直面する深刻かつ重大な課題のひとつである環境問題に対応するために、新たな多数国間環境条約の採択や決議や決定などの非拘束的文書を採択することなどを通じて、将来類似した環境問題を生じさせないための法的解決を図ってきている。 しかし、多数国間環境条約には、採択後も生物多様性の喪失などの自然環境の破壊など、環境問題を抱え続ける条約がある一方で、オゾン層保護などの対応に成功したと評価される条約もまた存在する。 本研究は、複数の多数国間環境条約の形態、体制、非拘束的文書などを手掛かりに、多数国間環境条約の実効性の評価とその手法を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は、既存の数多くの多数国間環境条約のうち、条約によっては採択後に条約の目的を必ずしも十分に達成しているとはいえない状況に照らし、当該条約の形態などを手掛かりに、環境条約の成否を分ける要素はなにかを検討する。また、環境諸条約がどのような方法を用いて、条約の目的を達成しようとしているかなどを整理することを通じて、環境条約の実効性の評価とその手法を明らかにすることを目的としている。 令和4年度は、先行文献を中心とした文献調査を行った。具体的には、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(ラムサール条約)において、これまでに採択された条約実施のための戦略計画やガイドラインに関する決議を整理し、その変遷を検討することにより、課題を抽出した。なお、2022年11月にラムサール条約第14回締約国会議が開催され、今後の条約体制の在り方が検討された。しかし運営体制の抜本的改革が前回会議で謳われたが、本会議においても継続審議となった。ラムサール条約の目的を達成するために、どのように条約を運用していくべきかについて、引き続き検討する必要がある。 なお、環境条約の実効性の確保の側面からは、条約間の調整に関わる事例の収集・検討を行った。具体的には、我が国で最初のラムサール条約の登録湿地である釧路湿原に焦点をあて、登録に至る経緯や地元住民の理解を含むCEPA(コミュニケーション、教育、参加、啓蒙啓発のことであり、ラムサール条約における湿地保全のための柱のひとつ)の実施について、当時の担当者にインタビューを実施した。また併せて、釧路湿原と姉妹湿地協定を締結しているハンター河口湿地も訪問し、同湿地のラムサール担当官にもインタビューを行った。双方の意見を伺うことにより、湿地保全の手段として姉妹協定の重要性について確認し、実施状況や協定に対する認識の相違などを検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、条約の実施の側面から先行研究や決議などの文献調査と、実際に条約の実施がなされる湿地管理の現場での齟齬を明らかにするための現地調査の側面から研究を進めていくことが不可欠である。 前者については、ラムサール条約に焦点をあて、条約の実施に関して(a)条約体制の機能的な側面、(b)条約の実施の側面の2つに分けて関連する決議を整理するなど、予定通りに文献調査を実施することができた。特に(a)については、条約締結当時の体制から条約ガバナンスに関するXIII.3決議や常設委員会の責任、役割、構成に関するXIII.4決議を経て、現状ではさらに地域的分類に対する配慮や有効性や効率性のために各管理者の具体的な役割の再調整が条約内部に求められていることが解った。この点は、条約事務局が客観的に条約の現状を把握し、条約の在り方を精査し、対応することを通じて条約実施の確保を試みている点は評価できるが、決議の内容は、すでに採択されたものと実質的に変化していないことを明らかにした。 後者については、本年度はラムサール条約の第14回締約国会議に実際に参加することを通じて、会議中の決議採択までのプロセスを含めた情報収集をする予定であったが、開催国におけるコロナウイルス感染症の拡大などの理由により、当初の開催時期および開催国が変更になったことにより参加が叶わなかった。 会期中においては、決議の採択までのプロセスは、代表的な意見のみが記載された議事録が多いため、実際にどのような議論がなされたか、あるいは議論されなかったのかを把握するためには、締約国会議に参加することが不可欠である。次回のラムサール条約の締約国会議は令和6年度となるため、当該会議に参加し、最新情報の反映をしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の柱となるラムサール条約の基本的な情報収集ができたため、令和5年度は、世界湖沼会議などに参加するなど湿地保全に関わる国際社会の最新動向を収集しつつ、条約の調整および条約間の相乗効果により焦点をあてて、研究をすすめていきたい。すでにラムサール条約は、条約間の相乗効果の追求をもたらすように、連携が必要な11の対象となる条約や国際機関などを掲げている。令和5年度はそのうち、世界遺産条約、生物多様性条約、気候変動枠組条約およびパリ協定を取り上げ、各条約の条約実施に関わる決議の整理、対応および最新動向を整理、検討していく。 世界遺産条約は、ラムサール条約と同様に登録制度を有しており、概ね成功している環境条約のひとつとして考えられている。条約の実施に関わる決議を中心に、その成否の検討を行いたい。なお、近年では、世界遺産に登録されている場所をラムサール条約の登録湿地としている場所も出てきており、条約の重複がどのように考えられ、またどのような調整が行われているか、現地調査を行いたい。 生物多様性条約では、ラムサール条約との合同委員会がすでに立ち上がっている。生物多様性条約の目的や直面している課題とラムサール条約との連携がどのような点で必要なのかを整理し、同委員会が、どのような課題を掲げて、どのように対応してきているのかを生物多様性条約の側面から検討する。 気候変動枠組条約およびパリ協定では、脱炭素との関係で湿地の利用が見直され、検討されている。炭素ストックとしての湿地の利用や気候変動とのリンケージを整理し、効果的な湿地保全に向けての課題を検討したい。
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