研究課題
若手研究
現在わが国では、ヒト胚を対象とする研究について特別法・政令・指針による具体的規定が複数存在するものの、ヒト胚研究全般を対象とする制定法はなく、また各政令・指針等と生殖補助医療特例法とは相互に連携されていない。そこで本研究は、わが国で、今後、生殖補助医療とヒト胚研究の実施について横断的・連続的な法規制を設けることの適否、あるいは規律のあり方を検討する。このため、他国(両者を横断的に規制する制定法を有する英国、子の出自を知る権利について規程を有する豪州ヴィクトリア州等)との比較をおこない、わが国の生命・家族に関する倫理観・価値観に留意しつつ、日本版のルールのあり方を検討し、具体的な案を示す。
2023年度は、ヒト胚の取扱いに関する論点のうち、体外受精の技術が確立されたことを契機としてヒト胚の体外における培養・観察・検査・介入および凍結保存が可能となったことに鑑み、特に生殖補助医療(体外受精を含む高度生殖補助医療)と、それらの技術を経て出生した子をめぐる法的課題、子の福祉に関する事項を中心として、下記の調査・研究の遂行と成果の発表を実施した。1) 生殖補助医療により出生した子をめぐり、現在の日本が直面している法的課題、すなわち提供胚・提供配偶子により出生した子の出自を知る権利の確保や、生まれてくる子の成長後の継続的な支援のあり方をはじめとする「生殖補助医療により出生した子の福祉」に関する課題の検討をおこない、論稿の執筆および講演会等を通じて情報の共有を行った。2) 体外受精・胚移植を前提として凍結保管されるヒト胚の取扱いに関して、医療機関側の課題と、子を望む夫婦・カップルによる凍結胚保管の継続と治療終結をめぐる葛藤に関する調査・分析の成果の一部について、講演会にて共有をおこなった。3)前年度の産科医師を対象とした意識調査の分析をとおして、生殖・周産期に関する倫理的・法的・社会的な課題のうち、特にコロナ禍における生殖補助医療・周産期医療を取り巻く状況に対する検討をおこなった。4)現在の日本におけるヒト胚を用いる研究について、「ヒト胚の取扱いに関する基本的考え方」見直し等に係る報告(第三次)に基づき状況を整理し、医事法分野の記事執筆および講演会等にて情報を発信した。上記に加え、前年度から継続して生命科学研究におけるヒト胚の取扱いに関する課題の調査・考察をおこなってきた。ヒト胚を対象とする研究と生殖補助医療の双方におけるヒト胚の取扱いについては、初年度に続き文献調査による他国との比較法的研究を実施し、その成果の一部を講演会・セミナー等で共有した。
2: おおむね順調に進展している
前年度までに実施した調査研究の論文・講演およびセミナー等における発表、国内外の研究者との連携については、当初の予定どおり、あるいは予定をより早める形で順調に進展した。一方で、他国への渡航調査の実施については、上記講演との調整を含め準備等に時間を要したために、当初の計画より時期を変更し、次年度に実施時期を延期したものがあるため。
次年度は、本年度までに調査を実施することのできなかった下記の項目について、研究を遂行する計画である。1)国内外における胚研究に関する規定および議論状況への影響に関するweb質問票調査、医療者(専門医、胚培養士等)を対象としたインタビュー調査2)第三者からの配偶子提供により出生した子の出自を知る権利について、法制度を有する豪州ヴィクトリア州におけるヒアリング調査上記の調査を通じ、他国との比較に基づき、わが国の生命および家族に関する倫理観・価値観にも留意しつつ、ヒト胚を用いる研究および生殖補助医療におけるヒト胚の取扱いについて、日本版のルールのあり方を検討する。2024年度には、本課題の最終年度として、2022年度・2023年度の調査および上記1)、2)に関する成果の発表を通して、今後のわが国におけるヒト胚をめぐる規律のあり方について、具体的な案を示すことを目指す。
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年報医事法学
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