研究課題/領域番号 |
22K13357
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分06020:国際関係論関連
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研究機関 | 防衛研究所 |
研究代表者 |
伊藤 頌文 防衛研究所, 戦史研究センター, 研究員 (60934932)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 国際関係史 / 外交史 / 冷戦 / 欧州統合 / 安全保障 / 欧州統合史 / 冷戦史 |
研究開始時の研究の概要 |
民主主義の動揺やポピュリズムの伸長、格差の拡大や移民・難民の流入といった問題は、現代世界における普遍的な価値観や規範の動揺、国際秩序の不安定化を象徴する。本研究は、その一例として欧州統合を取り上げ、統合の拡大によって顕在化しつつある諸問題の歴史的一起源を探る試みとして、デタント期から新冷戦期における地中海の地域秩序の動揺や安全保障環境の変容を手掛かりに、欧州統合の南方拡大の過程を実証的に跡付ける。また、民主主義や人権といった普遍的な価値規範がいかなる作用をおよぼしたのかを考察し、その今日的意義と逆説性を提示することを試みる。
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研究実績の概要 |
本研究は、現代世界における普遍的な価値観や規範の動揺、国際秩序の不安定化を象徴する、民主主義の動揺やポピュリズムの伸長、格差の拡大や移民・難民の流入といった問題の一例として欧州統合を取り上げるものである。統合の拡大によって顕在化しつつある諸問題をめぐって、その歴史的一起源を探るために、本研究はデタント期から新冷戦期における地中海の地域秩序の動揺や安全保障環境の変容を手掛かりに、欧州統合の南方拡大の過程を実証的に跡付ける。その過程で民主主義や人権といった普遍的な価値規範がいかなる作用を及ぼしたのかを考察し、その意義と逆説性を提示したいと考えている。 上記の問題意識に基づき、初年度にあたる2022年度は、1980年代におけるヨーロッパ冷戦の文脈から、地中海の安全保障問題の諸相を鳥瞰的に分析し、欧州共同体(EC)の南方拡大がいかなる形で関係していたのかを検討した。また、その過程で民主主義や法の支配といった普遍的な価値規範がどのように作用し、安全保障をめぐる課題の対象として組み込まれていったのか、という視覚を導入し、文献調査と資料の読み込みを進めた。 その結果、ECの南方拡大が単純な経済統合としての成果を超えて、民主化を経て政治的な安定を模索する南欧諸国と、それが政治経済面のみならず安全保障上も有益であると考えるECや北大西洋条約機構(NATO)など国際機構の思惑とも合致したことで進展した側面に光を当てることができた。その成果の一部を学会発表「新冷戦期ヨーロッパにおける安全保障問題の一試論:地中海地域を中心に」にて論じ、活発な質疑応答で様々な発展可能性を得ることができた。その成果を踏まえつつ、英国立公文書館での史料調査も実施し、当該期の西欧安全保障に関わる史料を収集する機会にも恵まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、本研究の遂行にとって重要な先行研究の渉猟と分析、入手可能な一次史料の収集と読み込みを主眼に置いた研究計画に基づき、幅広い資料を入手することに努めた結果、主に本研究の対象時期の後半にあたる1980年代について、おおむね順調に研究を進めることができた。 二次文献については、当該期の国際関係や欧州統合、西側同盟に関する研究や、南欧地域における権威主義体制の崩壊と民主化の過程を扱った研究など、本研究に直接関係するテーマの文献を広範に渉猟し、様々な論点を把握した。一次史料は公刊史料集(英DBPO、米FRUS、独AAPD)、各文書館のデジタル化された史料(NATO文書館など)を読み込み、1980年代の西欧安全保障に関わる各国及び国際機関の政策決定過程や同時代的な情勢認識を析出することができた。また、特に史料公開が進んでいる英国立公文書館での史料調査も実現し、本研究の対象時期にあたる1970年代後半から80年代にかけての関連テーマについての文書群を調査・収集することもできた。 2022年度の具体的な研究成果として、軍事史学会の例会報告「新冷戦期ヨーロッパにおける安全保障問題の一試論:地中海地域を中心に」で上記の分析結果の一部を論じ、ヨーロッパ帝国主義との接続、現代的な問題への昇華など、活発な質疑応答及び意見交換を通じて今後の研究の方向性を一層深めることができた。本研究の前史にあたる時期の実証分析についても、2022年度の研究成果を踏まえて、より連続性を意識した考察に改善することができ、執筆完了と投稿に向けた準備をさらに進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる2023年度は、2022年度に引き続き南欧3か国(ギリシャ、スペイン、ポルトガル)のEC加盟問題と欧州統合の南方拡大のプロセスを分析の主軸に据えつつ、その前段階にあたる1970年代後半の事象、具体的には南欧3か国の民主化とEC側の対応について、一次史料及び二次文献の調査と読み込み、史料調査を継続的に行う。 二次文献は、1970年代半ばの南欧における民主化と欧米諸国の反応、その政治外交面での意義や安全保障問題との連動など、隣接する諸テーマについて幅広く目を通す。この作業を通じて、一連の事象が同時代的に有した意義と、時代が下った1980年代の出来事との繋がりにおいていかなる意味をもったのか、中長期的な視点で論点を析出したいと考えている。 一次史料としては、前年度に引き続き各国の公刊史料集及びオンラインで入手可能なデジタル化された文書群を広範に渉猟し、分析を進める。また、海外での史料調査は、欧州連合歴史文書館、NATO文書館、英国立公文書館などを対象として検討している。 また、2022年度と同様に、研究成果の発表も積極的に実施する。各種研究会や学会での研究報告を行うほか、国際会議での研究発表も検討している。具体的には、9月上旬にトルコ・イスタンブールで開催される第48回軍事史国際会議に参加し、研究発表に応募することを予定している。これらの研究報告によって得られた成果を踏まえて、学会誌等への投稿も積極的に進める。日本語のみならず国際的な査読誌への投稿も目指したいと考えている。
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