研究課題/領域番号 |
22K13370
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分07020:経済学説および経済思想関連
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
高 晨曦 九州産業大学, 経済学部, 講師 (00909955)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | サービス / 生産的労働と不生産的労働 / 家事労働 / 感情労働 / プラットフォーム経済 / サービス産業 / 産業分類 / 収入の弾力性 / 経済のサービス化 / 物質的労働 / 生産的労働 / 現物貸付 / 政治経済学 |
研究開始時の研究の概要 |
在来の理論では「サービスの売買」は商品の売買と同一視されている(以下、サービス商品の「等価交換説」)が故に、サービス部門と商品生産部門の差異は有形財と無形財の違いに帰結してしまい、この違いから「経済のサービス化」を説明することはできない。 これに対して本研究は先入観を捨て、「現物貸付説」に基づく新しいサービス論を模索する。すなわち、サービスの提供を労働力と消費手段の一時的使用権の消費者への現物貸付と想定して、「サービス商品」の価格を元金(労賃、消費財の生産費と償却費)と貸付の利子(産業平均利潤)からなる現物貸付の料金として捉える。
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研究実績の概要 |
令和5年度の研究では前年度の成果に踏まえ、現代「サービス」の実践的範疇(すなわち経済統計学における「サービス産業」もしくは「第三次産業」の範囲)とその理論的根拠(「第三次産業理論」(Tertiary Theory)、とくに需要の飽和説(クラークの法則)、経済進歩説と収入の弾力性理論)との間の著しい乖離が明らかになった。とくに、在来のサービス=無形財、もしくはサービス=非物質的労働という通説の財ーサービス二分法は、現代「サービス」の実践的範疇と一致しないことが発見された。 この不一致により、現代「サービス」の範疇に関わる経済学や社会学での論争、たとえば生産的労働と不生産的労働(PUPL)論争、公的サービスのコスト病論争、家事労働論争などが、それが議論する対象の不明確さによって、論争当事者の主張のほとんどは平行線に終わり、混乱を極めた。また同じく最近注目される労働過程論と労働社会学におけるプラットフォーム経済、デジタル労働、感情労働などのカテゴリも現代「サービス」と深く関わっているが、現代「サービス」は産業分類の三部門モデルにおいて、「残余主義」(Residualism)の原則にしたがって「否定な形」で区切られているが故に、労働社会学などが理解しているようなinteractive workや「無形財」を生産する労働と一定の距離がある。この現代「サービス」の異質性により、これらの研究分野の結論はどこまでの通用性あるいは汎用性があるかを、本研究の結果を踏まえて細心に検討する必要がある。 本研究はこうしたサービス論の広がりを意識し、これら幅広い社会科学的な論争における「サービス」の扱いが適切であるかどうかを検討し、過去の論争の整理に取り掛かる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の課題進捗状況は、当初の計画に照らしてより進展している部分と、少し遅れているもしくは修正が必要な部分はあるが、全体的に見ておおむね順調に進展している。 まず、今年度の研究の中心課題である、現代「サービス」の実践的範疇とその理論的根拠および通説での理解との不一致を明らかにすることは、著書の出版によってほぼ完成した。 一方、次年度(令和6年度)に予定されている、関連分野への広がりを意識して研究成果の幅広い応用もある程度取り入れ、複数の国内や国際的学会で研究の広がりと可能性を披露し、サービス論以外の分野との接点を見つけた。 他方、同じく令和5年度の研究結果(上記「不一致」のところ、および現代「サービス」の範疇の雑多性)を踏まえ、ミクロとマクロ視点の統一という役割を元来予定されている「現物貸付の視点」だけに任せるのは難しいという結論に至った。代わりに、新たに「欲求の視点」を導入することで両者を統合することは可能であり、社会科学的な広がりも見せているため、欲求理論に立脚するサービス論の展開に軸をシフトした。
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今後の研究の推進方策 |
現代「サービス」は産業分類の三部門モデルにおいて、「残余主義」(Residualism)の原則にしたがって「否定な形」で区切られている。ゆえに、「現物貸付の視点」だけで現代「サービス」のすべての分野を統合することは困難であることがわかった。 しかし、サービスは使用価値の有用的働きである点は変わることなく、またすべての活動に共通に見られる点から、新たに「欲求」の視点を導入することによって、効果的に「現代サービス」の機能と経済形態を捉えることは可能である。また、欲求理論を発展することにより、過去の欲求体制(regime of need)に対応する「古典的サービス」と資本主義的欲求体制(capitalist regime of need)における「現代のサービス」を統合する可能性も開かれた。 令和6年度の研究はサービス論の統合に必要な欲求理論の開発を中心に推進される予定である。また、「欲求」を媒介に、これまでサービス論では首尾一貫に取り組まれなかった家事労働(家内的もしくは家父長的生産様式を含む)、感情労働、デジタル労働など、サービス労働の現代的広がりをも視野に入れる。
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