研究課題
若手研究
今日、企業の競争優位に貢献する人材として、環境に迅速に適応し主体的に行動できる個人の重要性が高まっている。こうした人材に関しては、仕事を幅広く経験することで、困難な状況へのアダプタビリティが高められることが強調されている。他方でこのことは、仕事へ深く取り組むことによるスキルの取得や、アイデンティティの確立との間に、ある種の緊張をもたらす。本研究は、多様な仕事経験要因を析出して個人のアダプタビリティとアイデンティティが相互的に形成されるメカニズムを明らかにし、企業組織において従業員の適応能力を高める仕事経験経路のモデル化と効果の検証を行っていく。
本研究の目的は、異動や転職、副業などの組織内外の多様な仕事経験要因を析出して、個人のアダプタビリティとアイデンティティが相互的に形成されるメカニズムを明らかにすることである。本研究の初年度として本年度は、キャリア・アダプタビリティを支える職務経験とスキルに関して、文献レビューを通して理論研究を行ってきた。HRM論領域において、職能経験とスキルの広さや深さに関する研究は多い。とりわけ日本においては、ブルーカラー労働者の知的熟練論(小池・猪木、1987)等の実証研究が蓄積されてきた。こうした国内外の研究を学説史的にレビューし、理論概念のレベルにおいて、仕事経験、個人のスキルや能力、資源ベース視角による競争優位(RBV)などに関わる諸概念の内実を明らかにするとともに、概念間の関係性を考察した。また、2018年より展開してきた日系大手電機メーカーP社との共同調査プロジェクトにおいて、本年度も従業員約3万人を対象にコンピテンシー及びスキルに関する大規模サーベイ調査を実施し、異動トレースや海外勤務経験、転職経験など、従業員の職務経験に関する人事データと、従業員のメタ・コンピテンシーやコンピテンシー、行動特性、性格特性にわたる広範な人材アセスメントデータを得た。このデータをもとに、社員の性別や年齢、仕事の経験年数、社内外ネットワーク、主観的ウェルビーイング、メタ・コンピテンシー(アダプタビリティやレジリエンスを含む)等の関係を広く分析した。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の初年度として、文献調査による理論研究とアンケート調査による量的分析を計画しており、そのほとんどを終えることができた。この分析結果をもとに、次年度以降に計画されている、非連続的な異動や転職、副業など多様な職務経験とアダプタビリティに関するインタビュー調査に順調に移行することができる見通しである。
本研究課題を推進するために、多様な仕事経験が個人のアダプタビリティとアイデンティティの相互的形成プロセスに及ぼす影響をより深く分析していく必要がある。そのために、定量分析を進めるとともに、従業員へのインタビュー調査とグラウンデッドセオリー・アプローチによる質的データ分析を行うことを予定している。インタビュー調査の対象者は、研究者の本務校MBAの社会人院生等、自分のキャリアを模索し自らのアダプタビリティを高めようとしている者を中心に設定し研究を推進していく。
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経営学史学会年報
巻: 30 ページ: 85-100
日本労務学会誌
巻: 23 ページ: 16-23