研究課題
若手研究
今日、企業の競争優位に貢献する人材として、環境に迅速に適応し主体的に行動できる個人の重要性が高まっている。こうした人材に関しては、仕事を幅広く経験することで、困難な状況へのアダプタビリティが高められることが強調されている。他方でこのことは、仕事へ深く取り組むことによるスキルの取得や、アイデンティティの確立との間に、ある種の緊張をもたらす。本研究は、多様な仕事経験要因を析出して個人のアダプタビリティとアイデンティティが相互的に形成されるメカニズムを明らかにし、企業組織において従業員の適応能力を高める仕事経験経路のモデル化と効果の検証を行っていく。
本年度は、従業員の適応能力を行動柔軟性の観点から検討し、知的熟練論や人的資源管理論の知見を踏まえた形成プロセスのモデル化を行った。行動柔軟性は行動への動機づけを含む概念であり、アダプタビリティやレジリエンスなど個人の持つ変化への適応過程にも関係する。適応力や学習能力のある個人は、非連続な異動などで全く経験したことのない状況に直面しても何とかして短期間で適応するため、企業が状況変化に対処するスピードを速める。また、行動の柔軟性が高い従業員は、他者との積極的に交流することで、組織内外のネットワークを広げることにも貢献しうる。さらに、これまで全く経験したことのない状況に対しても創造的に問題解決する行動や、状況を進取的に創り出せる革新的行動は、企業の通常能力に変化をもたらすケイパビリティを形成することがわかった。このことから、従業員の適応的行動や革新的・創造的行動を導くような柔軟性志向の人的資源管理の重要性が明らかにされた。本年度に行われた調査分析では、適応能力のある人材としてのイノベーション・プロジェクトリーダーに焦点が当てられた。頻繁にスタックするイノベーション・プロジェクトでは、絡まり合っている複数の不確実性に対して、根回しによって状況の意味付けを変え、着手すべきものの合意を取り付けプロジェクトを前に進めていくことが必要である。調査分析からは、不確実性のパターンによって適切な根回し戦略を上手く選ぶリーダーの適応的行動が明らかにされた。
3: やや遅れている
2023年度に出産に伴う産休を経たことにより、学会での中間成果発表や参加予定の研究会、計画していたインタビュー調査をいくつかキャンセルせざるを得なかった。
本年度前期中に、追加的アンケート調査および前年度予定されていたインタビュー調査を行い、本年度後期には学会や研究会にも参加予定である。
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