研究課題/領域番号 |
22K13541
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
三家本 里実 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (80863662)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 保育 / 虐待 / 不適切な保育 / 労働過程 / 労使関係 / 労務管理 / アンケート調査 / インタビュー調査 / 保育士 / マルトリートメント / 労働環境 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、保育士の一斉退職が社会問題となっている。低処遇の問題がその背景にあるとされることが多いが、保育現場における事故や虐待の問題も関係している。 「不適切な保育」が発生した際に、それに疑問を持つ現場の保育士は、園への改善要求や行政への通報など、何かしらのアクションを行っているが、これが適切に対処されない場合に、自らが「不適切な保育」に加担しないよう、離職するというケースも少なくない。このような状況は、保育の質を脅かし、子どもの生命・安全を守り発達を促す場として望ましくない状況を再生産することになりかねない。 本研究では、保育現場における「不適切な保育」の発生要因、および構造について明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究は、保育所で発生する「不適切な保育」の問題が、保育士の労務管理や園の体制と密接に関連していることを多角的に分析するものである。当該年度においては、おもに以下の三点に取り組んだ。 (1)2022年度に設計したアンケート調査(インターネット調査)の分析。全36問の質問に対し、計177件の回答を受けた。そのうち9割が、保育所における子どもへの虐待を見聞きしたことがあった。内容としては、「腕を引っ張る」が47.2%、「食事を無理やり食べさせる」47.2%、「椅子に縛り付ける」が34.8%であった。その原因として象徴的であったのは、約5割が「園内でそのような行為が注意されたり、改善のための対策を取られたりしないため」という労務管理に関連する回答が多数を占めたことである。 (2)労働過程の変容に関する国際学会での研究発表。ギリシャで行われたHistorical Materialismにおいて、近年の労働過程の変容を理論的に検討した研究発表を行った。AI等のテクノロジーの登場により、労働者と労働対象・労働過程への関与がどのように変化するのかについて、マルクスおよびブレイヴァマンの労働過程論から分析した。そのなかで、労働過程への労働者の決定権という観点から、保育を含むケア労働の意義および可能性に関する研究発表・議論を行った。 (3)新書出版に向けた検討。本研究テーマは、ここ数年、事件・事故が起こるために新聞等で報じられることも増えたが、研究蓄積は乏しい。そのため、こうした問題が発生しているという実態を明らかにするような一般書も存在しない。このような状況にたいして、実態の告発、社会問題としての提起、そして解決策について広く検討することが、社会貢献という点で重要であると考える。このような問題意識のもと、出版社の編集者との打ち合わせを開始し、新書出版に向けた検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、虐待・不適切な保育の発生に密接に関わる労働者の決定権、ないし労働内容への関与について、労働過程論の立場から理論的な検討を行った。ブレイヴァマンの労働過程論を土台としつつ、近年の変化、労働対象が人間であることの特殊性を踏まえたうえで、必要な批判検討を行っているという点で、今後の研究を遂行するための理論的な整理・土台作りがなされたといえる。今年度、国際学会での発表(1本)、国際ジャーナルへの論文投稿(1本。現在、査読中である)。今後も、国際学会での発表・国際ジャーナルへの論文投稿を継続的に行い、さらなる理論的な発展をねらいたい。 また、同問題に関する新書の出版が実現すれば、関連領域も含めた調査の実施が進むのではないかと考えている。現在、保育所に係るアクターとして、とくに行政機関への聞き取り調査の実施が難航している。各方面からのアプローチも進めるが、新書の出版により、同問題への啓発が調査対象者の発掘につながるのではないかと考えられ、今後のインタビュー調査・アンケート調査の実施という点でも、新書を出版することにつなげたいと考えている。 今年度は、これらの土台作りを行ったという点で、「おおむね順調に進展している」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
先に分析したアンケート調査の分析を踏まえ、学術論文の執筆を行う。広く質問項目を設定したため、問題を多角的に検討することができたが、論点を整理したうえで、1本、ないし2本の論文としてまとめて発表を行う予定である。 また、新書出版に向けて、保育所に子どもを預ける保護者へのインタビュー調査を進める予定である。実態の告発や解決策の検討など、啓発の意味で新書を執筆するうえでは、関係アクターとして重要な保護者の協力が欠かせない。さらに、今年度の分析においては、保護者によるいわゆる「教育熱」や、教育経済学に影響を受けた早期の幼児教育への駆り立てが、保育所運営に大きな影響を与えている側面も垣間見える。この点を分析するためにも、虐待、ないし「不適切な保育」の発生如何を問わず、保育所に子どもを預ける保護者の意識や保育所への関わり・関与を分析することは重要ではないかと考えている。
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