研究課題/領域番号 |
22K13554
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
|
研究機関 | 静岡大学 (2023) 福山大学 (2022) |
研究代表者 |
丸山 友美 静岡大学, 情報学部, 講師 (80882068)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | テレビ / ドキュメンタリー / フェミニスト・プロダクション・スタディーズ / 地方メディア / プロダクション・スタディーズ / エスノグラフィー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、戦前・戦後を通じてJOBKで働いた女性制作者の姿や役割を人と番組のネットワークから描くことを目的にもつ。放送現場で理解・共有されている適切な行動パターンや慣習などの非公式なルールは、これまで男性制作者の語りを中心に分析されてきた。だが「彼ら」が用いる語彙では語り得ない、もう一つの番組制作の手法もある。制作文化研究の側面から番組資料と女性制作者の語りを検討する本研究は、放送史にジェンダーの観点を差し込むことを試みる。この試みを通して、JOBKという磁場の特性を確認し、そこに生きた女性制作者が、「ケアの倫理」と呼ぶべき態度を用いてドキュメンタリーの限界と制約を更新し続けた営みを検証する。
|
研究実績の概要 |
本研究は,戦前戦後を通じてJOBK(大阪中央放送局/大阪放送局)で働いた女性制作者の姿や役割を人と番組のネットワークから描き出すことを目的にもつ。2023年度は,ジェンダー・スタディーズやプロダクション・スタディーズ,そしてケアの倫理に関する国内外の文献を収集し,理論的視座を固める作業に取り組んだ。また,毎年関西大学で開催されている「「地方の時代」映像祭」や隔年開催の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」,そして放送文化基金が毎年主催している「全国制作者フォーラム」などへの参加を通じて,研究ネットワークの維持と拡大に取り組んだ。 特に,大きな成果は毎月開催される例会に継続的に参加することによって,一般社団法人自由ジャーナリストクラブの理事や会員,及び例会の参加者から本研究に対し示唆に富む助言をいただいたり,資料の存在を教示いただけたりしたことである。幸いなことに,2024年1月開催の例会では,2023年9月に刊行した『日本の初期テレビドキュメンタリー史』(青弓社)の成果を報告する機会を頂戴し,当時を知るテレビ制作者OBOGからフィードバックを得ることができた。約70年前のテレビ番組をいま研究する意義を再考する必要性や分析対象にできなかった番組の位置付け方もご指導いただいた。今後もこれまでに築いた研究ネットワークを大切にしつつ,研究調査に取り組みたい。 くわえて,本研究を遂行する過程で,テレビ制作現場の周縁に追いやられていた/いるのは,撮影や編集,音楽効果や照明といったメディア制作技術者や加入業務や聴取者獲得に向けた広報活動に従事する事業部門に属する人々も同様であることに気がついた。こうした排除の論理は,女性制作者たちの足跡が放送史に残されてこなかったことと関係するはずである。この点も,2023年度の活動では目を配りながら,資料調査と文献収集を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初予定した計画で進行できているわけではないが,本研究の成果の一部として2023年9月に青弓社より『日本の初期テレビドキュメンタリー史』を刊行した。本書刊行により,従来のテレビ史あるいはテレビドキュメンタリー史が編纂される際には見落とされてきた「ジェンダー」の視点を導入する有用性を提示することができた。 本書は,初期テレビドキュメンタリー史において女性の存在を確認し,その営みを記述したことがとりわけ評価されている。ただし,本書の射程はテレビドキュメンタリーに留まり,「もっと多くの女性たちが,もっと多くの番組に携わっていたことを捨象してしまう」という指摘をいただいた。それはつまり,本研究課題に掲げる「フェミニスト・エスノグラフィー」に取り組む「私=調査者」は何者なのか,どのような立場から初期テレビ制作現場で働いた女性制作者たちと「私=調査者」は向き合うのかという再帰性の問題を突く指摘である。こうした指摘に今後向き合っていく必要がある。 また,JOBKの計画部(後の総務部企画課)が1930年に建設したラジオ塔の調査研究を通して,放送局内部の権力作用について検討する作業も進めている。放送内容には直接関わらない事業部門に属した人々の活動ゆえ,資料収集は難航しているが,これは女性制作者の足跡を掘り起こせない困難と類似するように思われる。こうした研究の「壁」を区別せず,「どのような理由で資料は残されなかったのか」という視点から研究を続け,理論構築の際に活かしたい。なお,2024年度の発表に向けて国際学会に応募し,無事採択されており,2023年度の研究成果を海外に発信するという次年度の下準備が整った。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は,本研究を遂行する過程で自覚した課題と理論的枠組みの有機的な接続を目指して,研究発表と成果論文の執筆に注力する。学会発表では,放送政策・メディア史・メディア論研究者と意見交換を行い,最先端の研究を反映できるように工夫する。論文執筆では,女性制作者の労働争議から考える表現場所の獲得過程と,メディア制作技術者たちの表現実践とメディア技術の関係性から彼ら彼女らの足跡を浮かび上がらせることを目指す。 研究成果の発信と並行して,引き続き関東と関西でフィールドワーク調査を実施する。本研究の主たる研究対象は,戦前戦後を通じてJOBK(大阪中央放送局/大阪放送局)で働いた女性制作者であるが,彼女たちの足跡を掘り起こすには,在阪の民間放送局やマスメディア企業で活躍した/している方々からもたらされる情報や資料,そして教えてくださる経験談などが極めて貴重である。今後もこれまでに築いた研究ネットワークを大切にしつつ,フィールドワーク調査に取り組む。
|