研究課題/領域番号 |
22K13778
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
原 紳 宇都宮大学, 工学部, 助教 (60650629)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | 欠陥のモデル化 / 不正を働く心理の洗い出し / 工学倫理 / 実習 / 溶接 |
研究開始時の研究の概要 |
工学倫理教育の本質は.特定の価値観を教え込むことではなく.専門家として物事の選択や判断をする基準を個々の技術者の中に形成することであり.専門家としての判断とは.特定の基準をどの事例にも一様に適用することではなく.事例に即して柔軟に思考することである.積層溶接作業では,特殊な検査方法を用いない限り,下層の欠陥は覆い隠され発覚しない.人間は見えるところは丁寧に作業するが,目に留まらない場所ではついつい手を抜いてしまう.実際に破壊試験や経時変化により進んだ腐食状態を目の当たりにすることで,作業の本質を見抜き,手抜きと合理化を見誤らない工学者としての倫理観を醸成する.
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研究実績の概要 |
当初,学生による溶接作業で内部欠陥を,仕上げ溶接により隠すという,行為が見られたことから,外観検査では発覚しないが,実際の強度は著しく不足していることを,実際に破断試験を経験させることで実感させ,その作業の目的をきちんと考えることが重要であるという,工学倫理の根柢を理解させるプログラムを想定したが,実際には半数以上の学生が,練習段階から上手に溶接を行い,内部欠陥を多く発生させることなく先に進むことが解った. そこで,仕上がりの形状を複雑にすることで溶接作業を複雑にし,さらに溶接の順番や,固定用治具作成といった要素も合わせ,作業時間や仕上がり等を競うというコンテスト形式にすると,先を急ぐあまり,何かしらかの欠陥を内在したままで作業を進めがちであることが解った. しかしながら,溶接個所の一部に発生させた内部欠陥をピンポイントで特定し,そこを中心に破壊試験用の試験片を切り出すことは難しい.このため,作業者が見過ごしがちな,溶接内部の欠陥(作業後には容易に発見できない)のモデル化を行い,あらかじめ試験片を用意し,適正に溶接された試験片と,人工的に作られた欠陥を内在する試験片との,破壊試験による強度の違いを学生に明示する構成としたところ,学生はそれぞれに見過ごした溶接欠陥の重要性を振り返り,あとから覆い隠されてしまう作業の持つ危険性を認識した. この過程で,授業プログラムのコンテンツとしては若干不足しているとの感触を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
金属アーク溶接等で発生する「溶接ヒューム」、「塩基性酸化マンガン」について、労働者に神経障害等の健康障害を及ぼすおそれがあることが明らかになったことから、労働安全衛生法施行令、特定化学物質障害予防規則等が改正され、令和4年4月1日より、特定化学物質を取り扱う作業に準じた作業環境管理、健康管理措置が義務づけられたが,大学の施設の対応が遅れているため,実際に学生を対象とした授業プログラムの実施が屋内では昨年度は行えなかった.そのため,屋外での実施や,企業により,学生フォーミュラ参加学生へ実施される溶接教室等に参加し,研究を進めているが,現時点ではサンプル数にやや不足がある. 本年度は後期授業への導入予定であり,サンプル数のキャッチアップは可能と考える. .
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,自己の工学倫理感の評価の高さが,職務上で工学倫理に係ることが解ってきた.つまり,「自分は工学倫理感が高いのだ」という自意識が,重要であるということである.また,フォーミュラカーを制作し,チームメイトが運転するという大きな責任を負って取り組むことが,工学倫理感の滋養に係る大きな要素であることも,追跡調査で明らかになった.溶接作業では先を急ぐあまり程度問題ではあるが,誰しも,溶接欠陥を安易に見過ごしがちである.現時点で,その欠陥部分を模式的に誇張したサンプルと,正しく溶接されたサンプルの強度試験を行い,その脆弱さを体験させることが気づきの第一歩となることのモデル化は概ね構築できた. しかしながら,体験型工学倫理教育プログラムとして実施するにはコンテンツが不足している.そのため現在検討しているのは,ファイヤーウォールの作成とその耐火試験のモデル化である.フォーミュラカーではコックピットを耐火素材で隙間なく覆い,事故などによるガソリン流出,火災発生から一定時間,炎の侵入を防ぐことが求められている.学生は一応その目的は理解した上で作業し,専門家からの厳しい指摘を受けながら最低限の安全が確保されたとして大会に臨む.実際にはチェックに漏れる微細な穴や隙間が存在することもあるが,火災の発生頻度が著しく少ない為に,その欠陥に気づく機会もほとんどない.かつて,ドライバーの登場しない状態で火災が発生し,見過ごした穴から一気にガソリンがコックピットに流れ込み火が付いた経験のある卒業生が,アンケートでその経験を「作業の本質を考えることの重要性」を知ることになった出来事,工学倫理感の礎となったと記した.これをモデル化し,コンテンツとして用いることを今後の課題の一つと考える. また,自己申告やアンケートからの評価以外に,教育効果の評価方法や追跡調査などの環境作りにも注力したい.
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