研究課題/領域番号 |
22K13800
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分10010:社会心理学関連
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
正木 郁太郎 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (30802649)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 感謝 / ダイバーシティ / 集合的感情 / 組織 / 集団規範 / 集団凝集性 |
研究開始時の研究の概要 |
「感謝」は日々の当たり前のコミュニケーションのようにも思われるが、一方で、心理学的にその重要性も度々実証されている。一方で、感謝が人々の日常生活においてだけでなく「働く場面」においても重要なのか、また具体的にどのような機能を果たすのかは明らかではない。そこで本研究では、企業組織を対象として、組織生活における感謝の効果を検討する。中でも、個々のメンバーが感謝に関わるだけでなく、部署やチームといった集団全体で感謝を多く経験する(みんなが互いに感謝でつながっている)ことの効果について、質問紙調査と行動データを併用して実証研究を行う。
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研究実績の概要 |
本研究プロジェクトでは、企業組織で人が協働するうえでの「感謝」の重要性について、(1)感謝行動が様々な要因に与える影響を検討する。特に(2)集団(部署やチーム)を単位として感謝行動を介して強く結びつくこと(集合的感謝)の効果、(3)そうした結びつきが特に重要になる条件(調整要因)を探究することを目的とする。研究は<手法1>質問紙調査と、<手法2>企業内の行動データ分析の2つの柱で構成される。 2023年度はそれぞれについて新たなデータ収集と成果の発表を行った。まず<手法1>に関して、働く人を対象にウェブ調査を1件実施した。この調査では、2022年度に作成した感謝行動に関する心理尺度やそこから得られた知見をもとに、特に「感謝と称賛の効果の違い」や「集団規範の醸成や知覚に対する影響」に注目して設計と分析を行った。また、2022年度に実施した調査の結果は、日本社会心理学会ならびに産業・組織心理学会の大会で発表し、それらの一部は筆者の別の研究成果と併せて単著として2024年度中に出版予定である。 次に<手法2>に関しては、本研究費の助成開始前からのプロジェクトだったことや、潜在的な利益相反関係の軽減のために、2022年度と同様に本研究費を一切使用せずに実施した。2023年度は2件(2社)の感謝や称賛に関する異なる行動データの分析に取り組んだ。1件目では、感謝を交わす経験の積み重ねが、従業員の社内評判の確立や主体的行動の促進に寄与し、それによって個人だけでなく組織の円滑な機能にも役立つ可能性を時系列性を考慮した分析で検討した。この分析をもとにした論文が査読付き学術誌に掲載決定している。2件目では、感謝行動から成る企業データの分析を行い、感謝の習慣や文化が組織内に浸透していく過程を定量的に示すなど、一定の成果が得られた。こちらは前掲の単著の一部章として成果の発表を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は本研究プロジェクトの研究課題に対して、<手法1>質問紙調査、<手法2>企業内データの分析の各々の手法を用いて、さらなる検討を進めることができた。特に<手法2>の企業内データの分析については、当初想定していた時系列を考慮した分析も前掲の通り進めることができた。得られた成果の内容を端的にまとめると、(1)感謝や称賛を交わすことは企業組織においても従業員間の信頼や評判の醸成に有用であり、(2)従業員のワークエンゲイジメントや主体的行動などを促進する可能性が定量的に示唆されるほか、(3)当人が感謝や称賛を交わすだけでなく「感謝や称賛を交わしあう職場」を作ることにもチームワーク向上などの効果を期待するに足る結果が得られた。以上より、特に<手法2>を用いた研究は当初の想定以上に進捗していると考えている。 ただしどちらの手法に関する研究でも、一定の課題も残っている。まず<手法1>については、マルチレベル分析が実施可能な調査(e.g., 特定企業で実施する社内質問紙調査)を今後実施する必要がある。そして<手法2>については、「感謝や称賛の効果」それ自体を多面的に研究することはできたが、一方で、本研究のもう一つの軸である「そうした効果が特に強まるコンテクスト」としてのダイバーシティや職務特性の効果までは検討しきれていない点が課題といえる。
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今後の研究の推進方策 |
前項の内容を踏まえて、計画の3年目となる2024年度は次の2点を中心に引き続き研究を行う予定である。 1つめは、前掲の<手法1>に関わる、質問紙を使用したマルチレベル分析を行うことである。調査協力企業を募集し、質問紙を使用した場合にも感謝行動に集団を単位とした十分な共有性があるか(つまり感謝が交わされやすい集団とそうでない集団に分かれるか)、またそうした共有性がどのような帰結につながるか(つまり前述のような違いが何につながるのか)を分析する必要がある。引き続き折に触れて積極的に協力いただける企業を募集し、研究を進める。 2つめは前掲の<手法2>に特に関わる点だが、単に企業組織内での感謝や称賛の効果を検討するだけでなく、そうした効果が「どのような特徴を持つ職場」で特に強まるかを検討したい。具体的には、筆者の過去の研究成果(正木・村本, 2021)も踏まえて職場のダイバーシティの高低に注目するほか、テレワーク利用率の高低など、職場内のコミュニケーションを困難にする方向に働く要因に注目したいと考えている。ただし<手法2>の企業内データは秘密保持などの面で利用のハードルが高く、上記のような多様な変数に関わるデータ(ダイバーシティやテレワークの程度)を揃えることが困難なことも想定されるため、こちらの検証にも<手法1>の質問紙調査データを主に使用する可能性もある。
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