研究課題/領域番号 |
22K13958
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分12040:応用数学および統計数学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
濱口 雄史 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 助教 (50914884)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 確率Volterra方程式 / 確率発展方程式 / 無限次元リフト / 漸近的対数Harnack不等式 / 確率法則の一意性 / 確率Volterra積分方程式 / 確率制御 / LQ制御問題 / マルコフリフト / Harnack不等式 / 確率制御問題 / 時間非整合性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、時間非整合性や経路依存性を考慮した確率制御問題における最適戦略、および関連するヴォルテラ型確率積分方程式の数学的性質を解明することである。 時間非整合性を考慮した確率制御問題における「時間整合的な行動指針」を、後退確率ヴォルテラ積分方程式を用いて特徴付ける。また、非整数階確率微分方程式などに代表される経路依存性を持つ状態方程式を確率ヴォルテラ積分方程式によって記述し、対応する確率制御問題において動的計画法と最大原理を導出する。これらの一般論を用いて、数理ファイナンスや行動経済学等に現れる具体的な確率制御問題における最適戦略の解析を行う。
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研究実績の概要 |
本年度では、確率Volterra方程式(stochastic Volterra equation; SVE)の無限次元確率発展方程式(stochastic evolution equation; SEE)へのリフトの枠組みを定式化し、その解析を行った。SVEは、解がセミマルチンゲールでもMarkov過程でもなく、既存の確率解析手法やMarkov過程の一般論が直接は適用できないという大きな難点がある。そのため、解の存在や一意性などの基本的性質についても、特別な場合を除いて多くの問題が未解決であった。本研究で導入した無限次元リフトの枠組みは、SVEを直接解析するのではなく、対応する無限次元SEEを解析することで、SVEの背後にあるセミマルチンゲール性やMarkov性を捉えるというアイデアに基づく。 本年度ではまず、SVEの無限次元リフトであるSEEの状態空間や解の概念などの基本的な枠組みを定式化した。この枠組みの下、一般化カップリング法を応用することで、係数に関する弱い連続性条件の下でのSEEの弱解の存在と確率法則の一意性を示すことに成功した。このSEEの弱可解性から元のSVEの弱可解性が従うが、特に弱解の確率法則の一意性についてはSVEの既存研究を大幅に改善する結果を与えている。また、SEEの解に付随するHilbert空間上のMarkov半群の解析を行った。特に重要例であるGaussian Volterra processのリフトの規約性や強Feller性の成立・不成立の判定、および不変確率測度の特徴付けに成功した。また、SEEに関する漸近的対数Harnack不等式を導出した。 これらの研究成果を2編の論文にまとめ、学術誌に投稿した。また、多くの国際研究集会や、日本数学会年会における統計数学分科会特別講演などで研究成果の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、確率Volterra方程式(stochastic Volterra equation)を解析するにあたって、当初の計画時点にはなかった無限次元確率発展方程式(stochastic evolution equation; SEE)への無限次元リフトの新たな枠組みを見出し、その定式化と応用研究を行った。特に、既存研究では解析が困難であった、係数に関する弱い連続性条件の下でのSVEの可解性を、対応する無限次元SEEの解析を通して証明することに成功した。さらに、SEEの解の無限次元Markov過程としての諸性質の研究を行った。特に重要例であるGaussian Volterra processの無限次元リフトのMarkov半群に関する詳細な解析や、SEEに関する漸近的対数Harnack不等式の導出は、SVEの定常解の性質の理解に繋がる重要な研究成果である。 本年度で導入した無限次元リフトの枠組みによって、SEEの解析を通してSVEの諸問題にアプローチすることが可能となった。例えば、SVEの解の数値解析(Euler-Maruyama近似)やSVEに関する確率制御問題などの応用研究においても、SEEの解析を通した無限次元的なアプローチが有用であると考えられる。一方、SEEの解の無限次元Markov過程としての諸性質の研究など、SEE自身も興味深い研究対象となり得る。本年度の研究成果は、今後の研究における基礎的な理論を与えるだけでなく、研究計画当初には予期していなかった新たな研究対象を示唆するものである。以上より、現在までの進捗は当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で導入した無限次元リフトの枠組みに基づき、SVEに関する確率制御問題の研究を行う。 具体的には、SVEの制御過程の摂動に対応する変分方程式(変分SVE)を導出し、その無限次元リフトとして現れる変分SEEに対応する随伴方程式を求め、確率的最大原理に基づき最適性の必要条件を導く。このようにして定まる随伴方程式は、与えられた終端条件に対して時間的に後ろ向きに解く形の無限次元後退確率発展方程式(backward SEE)となると予想される。本研究での技術的に重要なポイントは、SVEの変分に関する摂動のオーダーを適切に導くことと、無限次元リフトに対応する随伴方程式として現れる無限次元backward SEEの解の存在と一意性を示すことである。前者については直近の研究で興味深い結果を得ることに成功している。後者については今後の研究において示すべき重要課題である。 また、動的計画法に基づく最適性の十分条件を導くことにも取り組む。ここでのアイデアは、制御されたSVEの無限次元リフトとしてのSEEに関する確率制御問題を考え、無限次元空間上のHamilton-Jaobi-Bellman (HJB)方程式を導出し、その解を用いて元のSVEに関する確率制御問題の値関数と最適戦略を求めるというものである。無限次元空間上のHJB方程式の粘性解の存在と一意性(比較定理)を示すことが重要課題である。 上記の研究と並行して、一般化カップリング法を用いたSVEの無限次元リフトに関するエルゴ―ド性とEuler-Maruyama近似の弱収束理論に関する研究を行う。さらに、行動経済学に現れる時間非整合的確率制御問題(効用最大化問題)における均衡戦略の特徴付けに取り組む。
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