研究課題/領域番号 |
22K13968
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 北里大学 (2023) 東北大学 (2022) |
研究代表者 |
西川 宜彦 北里大学, 理学部, 助教 (30914535)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | ガラス転移 / シミュレーション / モンテカルロアルゴリズム / モンテカルロシミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
過冷却液体状態は、液体を高温から急激に冷却することで容易に得られ、さらに冷却するとガラス転移を起こす。過冷却液体とガラス状態は現代まで盛んに調べられているにも関わらず、その普遍的な性質の理解は未だ乏しく、特にガラス転移を引き起こすメカニズムは解明されておらず、物理学における重要な問題の一つである。この研究では、ガラス転移に向けて劇的に遅くなる動力学の物理的起源の解明を目指し、熱力学的な側面から研究を行う。
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研究実績の概要 |
2023年度は、当研究計画で用いてきた格子ガラス模型の低温における遅いダイナミクスを前年度にシミュレーションを用いて詳細に調べた結果をまとめたほか、そこで議論した動的性質を裏付ける定量的な解析や、ダイナミクスの微視的な動的ルールへの依存性を同様に大規模な数値シミュレーションを用いて調べた。 まず前年度に得られた結果の定量的な特徴づけとして、粒子の運動性の相関関数の時間依存性の解析を行った。前年度までの研究で、低温ではある時刻で大きく変位した粒子が、別の粒子の運動を促進することで系全体の緩和が引き起こされていると考えられおり、新たに解析を行なった相関関数はそれと整合して、近距離にある粒子の運動に強い相関を持つことがわかった。 次に、従来の数値シミュレーションを用いたガラス転移の研究では、ニュートンダイナミクスなどの現実的な、空間的な局所性を持つ動的ルールを用いて調べられてきた。これまで知られているガラスに特徴的なダイナミクスの性質は全て局所的なルールにおいて知られているものである。本研究では格子ガラス模型を用いて、空間的に非局所的な動的ルールの下でのガラス転移温度付近でのダイナミクスを調べた。その結果としてこれまで知られているガラス転移の性質は全て同様に成り立つだけでなく、緩和時間の増大の速さや動的不均一性などが局所的なダイナミクスと比較してより強く現れることがわかった。これは近年議論されている理論的な予言と一致するものであり、遅いダイナミクスが詳細な動的ルールに依存せず、系の熱力学的な性質によって支配されていることを示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、2023年度に得られた結果をまとめ、論文の執筆を行なっている他、ランダムグラフ上の格子ガラス模型の熱力学量の厳密な計算など、派生した関連する新たな研究課題を複数遂行している。また、これまでに得られた研究結果は格子ガラス模型のガラス転移に関する一貫した性質を示唆し、計画当初は想定していなかったガラス転移に関する新たなシナリオを提示することができた。以上から概ね順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究進捗を踏まえて、今年度は以下の2点について特に重点的に研究を行う予定である。 i) ガラス転移の既存の理論的シナリオの検証には未だいくつかの障壁が存在する。その一つが、ガラス転移の平均場理論で用いられる秩序変数の測定手法の開発である。2023年度に、新たな測定手法を考案したが、格子ガラス模型ではやはりうまくいかず、その修正には平均場極限における格子ガラス模型の理解が必須であると考えられる。そこで、レプリカ理論に基づく計算を行ない、平均場極限での適切な秩序変数の探索を行い、その上で興味のある3次元空間中での場合の秩序変数の測定を行う。 ii) ガラス転移温度付近では極めて遅い緩和によって数値シミュレーションが困難になることが知られている。この問題の回避には効率的なアルゴリズムの開発が重要である。これまでの研究では交換法やスワップ法などを用いて低温での平衡状態のシミュレーションを行なっていたが、さらなる効率化を目指して、simulated tempering法の改良と非局所更新を含むスワップ法の開発を行う。
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