研究課題/領域番号 |
22K13971
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
橋本 一成 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10754591)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
|
キーワード | メゾスコピック系 / 電子間相互作用 / 熱電効果 / 非エルミート / 例外点 / 電流ノイズ / 量子熱力学 / 開放量子系 / 非平衡統計力学 / スピン流 / 協同現象 |
研究開始時の研究の概要 |
量子熱力学では、作業物質とみなされる少数自由度の単一量子系内部の量子コヒーレンスの役割が重要な研究テーマとなっている。一方、量子スケールの微弱な出力しか得られない量子熱機関から巨視的な出力を得るためには、多数の熱機関を並列的に動作させる事が必須であり、並列動作する熱機関の間の多体間量子コヒーレンスもまた重要になる。固体物理学や量子光学でよく知られているように、多体間に生じる量子力学的なコヒーレンスは、相転移や局在現象、レーザー発振や超放射など多彩な量子協同現象を引き起こすことが知られている。本研究では、協同現象を利用した量子熱機関群の巨視的出力増幅の可能性を探求する。
|
研究実績の概要 |
令和5年度は2重量子ドットが2つの電極と結合した系における電子輸送及び熱電効果について集中的に研究を行なった. この系において、ドット系内の電子ダイナミクスを支配するリンドブラッド型量子マスター方程式の時間発展生成子であるリウビリアンのスペクトルが、例外点と呼ばれる非エルミート系特有の縮退点を持つ.例外点では固有値だけでなく対応する固有ベクトルが重なり、リウビリアンは対角化できずにジョルダンブロック構造をもつ.その結果、例外点における電流の過渡ダイナミクスは単純な指数減衰ではなく冪的な特異性を示す.本研究では、この例外点における定常電流ノイズを詳細に分析した結果、ノイズスペクトルの線形が非ローレンツ型の線形を示すことを発見した.これは、例外点におけるリウビリアンのジョルダンブロック構造に起因する冪的時間発展がノイズスペクトルのローレンツ型線形からの狭小化を招いた結果である.そのスペクトル線形は例外点の次数と一対一対応しており、ノイズスペクトルを観測することでメゾスコピック系のリウビリアン例外点の存在とその次数を実験的に観測可能であることを明らかにした.例外点は開放量子多体系のリウビリアンで頻繁に出現する特異なスペクトル構造であり、それが電子輸送に与える影響を理解することは、量子多体系の熱力学的性質を議論する本研究の遂行にとって重要である. また、本年度の研究では、2重量子ドット系の電子間クーロン相互作用が電極間に生じる熱電効果に及ぼす影響の分析にも着手した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初想定していなかったリウビリアン例外点の電子輸送に対する影響についての検討を行なった結果、量子協同現象が熱電効果に与える影響についての検討にやや遅れが生じている.
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度の検討により、リウビリアン例外点が電子輸送に及ぼす物理的影響については多くの知見が得られた.リウビリアン例外点は量子多体系を介した量子熱電効果の研究においても頻繁に現れるスペクトルの特異性であるため、今後の研究遂行においてもその影響を考慮することが必要である.令和5年度に得られたリウビリアン例外点の物理的影響に関する知見をもとに、令和6年度には本格的に量子熱電効果の検討に集中的に取り組む予定である.
|