研究課題/領域番号 |
22K13973
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13010:数理物理および物性基礎関連
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
白井 伸宙 三重大学, 情報教育・研究機構, 助教 (20772081)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2023年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 高分子ゲル / 負のエネルギー弾性 / 自己回避ウォーク / 統計力学 / 厳密数え上げ |
研究開始時の研究の概要 |
近年、高分子ゲルの物性の新たな理解が進んでいる。その1つが均一な高分子網目を用いた系統的な実験で発見された、高分子ゲルの柔らかさに関係する負のエネルギー弾性である。本研究では負のエネルギー弾性を含む高分子ゲルに関する新規物性を統一的に理解するため、自己回避ウォークという高分子鎖の数理モデルをベースとした高分子ゲルの統計力学を構築することを目指す。
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研究実績の概要 |
高分子ゲルで発見された負のエネルギー弾性のミクロな起源を探るため、高分子ゲルを構成する高分子鎖1本を取り出して相互作用自己回避ウォークを用いたモデル化を行い、解析を行った。解析には、厳密数え上げを用い、計算機により条件を満たす自己回避ウォークを数え上げることで各エネルギー毎の状態数を求めた。得られた状態数をもとに統計力学を用いて1本鎖の硬さを表すスティフネスを計算した。計算結果から、負のエネルギー弾性を示した高分子ゲルの実験結果を定性的に説明する結果が得られ、負のエネルギー弾性の起源が高分子鎖と溶媒分子の間の引力相互作用であることが明らかになった。 モデルの引力相互作用を変化させてみると、負のエネルギー弾性の効果が大きくなって弾性率が下がる(柔らかくなる) と同時に、高分子鎖と溶媒分子の引力相互作用によって自己回避ウォークが局所的に伸びた構造を取ることが観察された。これは局所的に曲がりにくく「硬い」構造を取ることが全体として柔らかい状態を作り出していることを意味している。 さらに、一部の条件の自己回避ウォークについて状態数の数列の一般項を求めることに成功した。これにより、得られた結果は有限ステップの自己回避ウォークだけではなく、連続極限を取った場合でも有効であり、一般的に成り立つことが強く示唆された。 研究結果をまとめた原著論文はPhysical Review Letters誌からオープンアクセスで掲載された。本論文の出版に合わせてプレスリリースを行い、インターネットメディアや新聞で取り上げられ、研究成果を広く周知することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
出版された原著論文において、本研究課題の研究目的である「自己回避ウォークを用いて負のエネルギー弾性を含む高分子ゲルに関する新規物性を統一的に理解」のうち、「負のエネルギー弾性の理解」の部分を大きく進めることができたため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度までに得られた研究実績では、負のエネルギー弾性の起源について理解することができた。今後の研究の推進方策として、1. 負のエネルギー弾性を示すモデルの最小構成要素を探る、2. 自己回避ウォークの曲りやすさに関するエネルギー項を追加したモデルを用いて負のエネルギー弾性の効果が高分子鎖の局所的な特徴によってどのように変化するかを探る、という2つの方向性がある。1では理論的興味によりシンプルな統計力学モデルを探求し、2では現実の幅広い高分子ゲルを理解するためにより複雑な統計力学モデルを探求する。この2つの方向性について研究を進めることで、既に得られている結果の一般性を示しつつ、「高分子ゲルの統計力学」の構築に向けた次の一歩を進めることができると考えている。
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