研究課題/領域番号 |
22K13998
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奥村 駿 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90906695)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 磁気単極子 / 磁気スキルミオン / ワイル半金属 / 非線形光学応答 / フロッケ理論 / トポロジカル転移 / 磁気ヘッジホッグ / 磁気ソリトン / 磁気モノポール / 非平衡現象 / トポロジー / スピントロニクス / 非線形応答 |
研究開始時の研究の概要 |
磁気単極子は、古典電磁気学の枠組みでは真空中に存在できず、現在に至るまで観測されていない素粒子の一つである。しかし、物質中においては、電子スピンが生み出す量子力学的な有効磁場によって磁気単極子が形成されうることから、新奇な電磁気現象が発現する舞台として注目を集めている。本研究では、近年急速に発展している非平衡系の理論に基づき、磁気単極子をもつ磁性ワイル半金属や磁気ヘッジホッグ格子の電磁気特性を調べる。光や電磁場、電流などの強い外場が印加された系に対して、散逸や緩和を取り入れながら非平衡状態の電気伝導度を微視的に計算することで、磁気単極子に特有の光学応答や輸送現象を開拓する。
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研究実績の概要 |
本年度では、物質中の磁気単極子が示す電磁気応答に関連して、3報の論文を出版した。まずは、3次元ディラック電子系に共鳴的な周波数を持つ円偏光を照射することによって、大きなトポロジカル数を持ったワイル半金属状態が実現しうることをフロッケ理論に基づいた解析によって明らかにした。さらに、偏光の楕円率によって波数空間におけるワイル点の位置やトポロジカルな性質がコントロールできることを示し、異常ホール伝導度測定による実験的な検証可能性を提案した。これは、強い外場を用いることで非摂動的なプロセスからトポロジカルに非自明な電子状態を作り出し制御することができるという重要な結果であり、Physical Review Researchに掲載された。 また、トポロジカルな磁気構造と電流や振動磁場などの外場との間の結合についても新奇な現象を提案した。トポロジカル磁気構造の代表例である磁気スキルミオンが成す3次元紐状構造に対して、平行方向のスピン偏極電流が引き起こすダイナミクスについて解析・数値計算を行った。そこでは非線形なスピン波励起によってスキルミオンが不安定化し、強磁性へのトポロジカル転移が起きうることを理論的に明らかにした。本研究成果は、磁気単極子の間をつなぐ磁気スキルミオン紐の電流誘起ダイナミクスを解き明かすものであり、Physical Review Letters誌に掲載されEditor’s suggestionに選出された。 さらに、トポロジカルな磁気構造の基本的な舞台となるカイラル磁性体において、振動磁場による磁気共鳴を利用することで非常に大きな有効電場が取り出せることを理論的に明らかにした。加えて、振動磁場によってトポロジカルなソリトン構造を駆動させたり、エッジモードを用いてソリトン数を制御したりできることを提案した。この成果の一部はPhysical Review B誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究成果として、トポロジカルな磁気構造や電子状態を舞台に、電流・振動磁場・円偏光などの外場に対する応答を数値計算と解析計算の組み合わせによって明らかにしてきた。出版済みの成果以外にも、本研究課題の中心である磁気ヘッジホッグ格子について、空間反転対称性がある系での異方的相互作用がもたらす効果を調べている。数値シミュレーションを駆使した研究の結果、磁気異方性によってトポロジカルな性質が大きく変化し、伝導現象にも非自明な影響を与えうることを明らかにした。現在は、3次元のスピン電荷結合系における電気伝導度の計算コードを準備し、電子状態を絡めた直接的な計算を実行中である。また、磁気スキルミオンやスカラーカイラル状態といったトポロジカル磁気テクスチャにおいて、光起電力や高次高調波発生などの非線形光学応答に関する計算を進めている。 また、実験グループと協働しながら、より具体的な物質群における磁気ヘッジホッグ格子や光誘起ワイル半金属相の探索を行っている。それら候補物質の有効模型を構築することで、理論的な提案だけでなく、磁気単極子に関する諸物性の実験的な実現可能性まで視野に入れた共同研究を推進している。また、トポロジカル磁性体の材料探索の一環として、希土類磁性化合物において電荷密度波が非共面磁気構造を発現させうることを明らかにした。実験グループとの共同研究により得られたこの成果は、希土類磁性化合物において新たな切り口によるトポロジカル磁気構造の安定化機構を提案するものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのように大規模な数値手法によって、2次元の磁気スキルミオンやトポロジカル絶縁体とは異なった、3次元的な磁気単極子に固有の非平衡物性現象を開拓していく。例えば、電子系と結合した3次元のトポロジカル磁気構造に特有の伝導現象を探求するため、3次元スピン配置に対するモンテカルロシミュレーションと伝導度計算を組み合わせた大規模数値手法を用いる。すでにそれぞれのコードを開発し予備計算を進めているので、今後は温度・磁場依存性まで含めた広範なパラメタ領域を対象に計算を行う予定である。また、電子系の実空間・実時間発展を効率よくシミュレーションする計算コードの整備も進めており、今後は強い外場に対する超高速現象を少ないバイアスのもとで理解することに挑戦したい。さらに、より複雑な3次元磁気構造である磁気ホップフィオンに関する研究も開始しており、その安定性やダイナミクス、電磁気応答を調べることで本研究課題との相補的な進展が望まれる。
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