研究課題/領域番号 |
22K14000
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分13030:磁性、超伝導および強相関系関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
須波 圭史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (80886911)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 有機強誘電体 / 熱電効果 / 中性-イオン性転移 / トポロジカル励起 / ソリトン / ドメイン壁 |
研究開始時の研究の概要 |
熱と電気の交差相関現象である熱電効果は、学術的な関心のみならず、未利用熱を用いた効率的な熱発電など産業応用の観点でも重要な研究課題であり、新規熱電材料・熱電変換機構の開拓は基礎・応用の両面において強い波及効果をもたらす。本研究では、従来の一電子的な熱電効果の枠組みを超え、電荷と格子が強く結合した有機強誘電体を舞台に、強誘電体における対称性の破れに起因する新機構の熱電効果の検出、及びその熱電性能の評価を通じて、熱電材料としての有機強誘電体という新たな研究領域を開拓することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、有機強誘電体を舞台に発現する新奇な熱電効果の開拓を目指すものである。初年度は、中性-イオン性(NI)転移を示す有機強誘電体TTF-CAにおいてトポロジカル励起に由来する熱電効果の観測を目指し、TTF-CAの圧力下におけるゼーベック係数を測定した。 低圧に位置する中性領域では、ゼーベック係数の符号は正となり、温度低下に対して絶対値が増大する振る舞いを示した。NI転移温度においてゼーベック係数はキンクを示し、転移温度以下ではその符号が正から負へと転じた。圧力を印加しNIクロスオーバー領域に達すると、室温付近においてもゼーベック係数の符号が正から負へと切り変わり、更なる高圧のイオン性相においては、室温以下の全温度域でゼーベック係数が負となり、温度低下に伴い絶対値が増大する振る舞いを示した。 イオン性強誘電相におけるゼーベック係数の温度依存性は、従来の半導体描像で期待される表式で良く説明することができ、これは強誘電相におけるキャリアがポーラロンであることに矛盾しない結果と言える。一方でトポロジカル励起が熱的に励起される高温の常誘電相においては、ゼーベック係数の温度依存性は半導体描像では説明できない振る舞いを示しており、トポロジカル励起に起因する熱電効果の特徴を捉えている可能性が期待される。 また電気抵抗を同時に測定することでパワーファクターの評価も行った結果、圧力下強誘電転移付近において、パワーファクターが極大値を示すことが明らかとなった。これは強誘電相から常誘電相へと転移する際に、ポーラロンがスピンソリトン-荷電ソリトン対に解離することに起因すると推察される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、初年度はトポロジカル励起による熱電効果の観測を目指して有機強誘電体TTF-CAの圧力下ゼーベック係数の測定を行い、トポロジカル励起が熱的に励起される温度・圧力領域において、従来の半導体描像では説明できないゼーベック係数の温度依存性を観測した。またポーラロンがソリトン対へ解離するに伴いパワーファクターが極大値を示す振る舞いを捉え、これらの結果はいずれもトポロジカル励起に由来する熱電効果の特徴を捉えたものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は空間反転対称性の破れに関連した熱電現象の探索を目指し、まずはその重要な指針となる空間反転対称性の破れに由来する非相反電気伝導性の観測を目指す。特に強誘電体の極性方向の制御と非相反性を特徴づけるパラメータの相関を明らかにすることで、対称性の破れに起因する非相反効果の検出を試みる。さらには非相反伝導現象に関連する新奇な熱電効果の観測へと繋げていく。
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