研究課題/領域番号 |
22K14039
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
上村 尚平 奈良女子大学, STEAM・融合教育開発機構, 特任助教 (90805300)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | CP対称性 / CPの破れ / フレーバー対称性 / 自発的対称性の破れ / 離散的対称性 / フレーバー / 内部対称性 / 対称性の破れ / 素粒子論 / 離散対称性 / モジュラー対称性 / 超弦理論 |
研究開始時の研究の概要 |
素粒子の研究において離散的な対称性は重要な役割を担ってきた。この研究は離散対称性と超弦理論の関係性を探り、その統一的な理解を得ることである。標準模型は2012年のヒッグス場の発見によって確立した。一方で、標準模型を越えた物理は今のところ見えていない。標準模型を超えた物理の理解は素粒子論の重要目標であり、特にその中でも離散対称性はボトムアップ的に構成された現象論模型であると同時に、自然にUVの理論の残滓としてもみなせる点でも有望である。本研究では弦理論の離散対称性と現象論模型で用いられた離散対称性の関係を明らかにし、我々の住む宇宙の姿を明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度は主にCP対称性とフレーバー対称性に関する研究を行いました。CP変換は物質と反物質を入れ替える荷電共役変換(C)と空間の座標の向きを反転させるパリティ変換(P)を組み合わせた変換です。CP変換のもとでの不変性(CP対称性)は素粒子の標準模型では破れていますが、その破れ方は微妙で、なぜこのようなCPの破れがあるのかは明らかでありません。 我々はCPの破れの起源としてフレーバー対称性などの内部対称性がある可能性について研究しました。一般に、理論の中に複数の場が存在するとCP変換は適当なユニタリー行列を用いて一般化することができます。一般化されたCP変換は必ずしも同種粒子の荷電共役になるとは限らないので、一般化されたCP不変な理論は、CPの破れを引き起こす可能性があります。そのようなCPのようでCPでない変換をCP-like変換と呼びます。我々はCP-like対称性の物理的な意味について研究しました。CP-like変換は一部の場は普通のCPと同じように自分自身の共役な場に変換され、別の場は他の種類の粒子(または反粒子)に変換されるので、散乱に現れる場の種類によってCPが破れたり、破れなかったりします。我々はそのような場を3種類に分類し、どの場についてCPが破れるのかを明らかにしました。 またCP-like対称性の起源についても研究しました。群 G で表される内部対称性がその部分群 H に自発的に破れると G で既約表現として変換していた場は H ではより小さな表現の直和になります。G の表現に対してCP(またはCP-like)変換していた変換は、その部分群の既約表現に対しては CP-like(またはCP)的に変換する可能性があります。この機構を通じて、CP対称性はCP-like対称性の起源となり、また逆にCP-likeがCPの起源になりえることを示しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は主に一般化されたCP変換とフレーバーなどの内部対称性の関係について研究しました。CP対称性は超弦理論の有効理論の中にも現れる離散的な対称性の一部であり、さらにCPの破れは現象論的にも非常に重要な対称性です。現在の宇宙に存在する物質の量を説明するためにはCPの破れが必要になりますが、標準模型のCPの破れは現在の宇宙のバリオン数密度を説明するには小さすぎるため、標準模型を越えた物理にさらに大きなCPの破れがあると考えられています。CPとフレーバーなどの内部対称性の関係について研究することで、現在の標準模型やそれを越えた物理について様々な示唆が与えられると期待されます。 我々は一般化されたCP対称性について調べることで、このような対称性がCPの破れの起源になりうることを示し研究を進めることができました。一方、研究課題である弦理論との関係性についてはまだ深く調べることができていません。また、現在我々が示した模型は仮定的な内部離散対称性に基づく模型であり、実際のフレーバー物理や標準模型、さらにそれを越えた物理について、どのように関係するのかは明らかでありません。今後は、このような点を研究していくことが課題になると考えられます。また、投稿した論文についてもまだアクセプトされていません。 以上のような点から、研究は進んではいるものの若干の遅れを否定することはできず、進捗状況についてはこのようなに判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題はおもに2つです。一つはこれまでの研究成果を現実の物理に適用すること。それからもう一つはUVの理論との関係性です。 CP-like 対称性はそのまま現実の標準模型に適用することはできません。標準模型に存在する内部対称性はゲージ対称性のみであり、クォークやレプトンを別の粒子に入れ替えるような対称性は明らかに存在しません。CP-like 対称性は何らかの標準模型を越えた物理と関係づいていると考えられます。そのような物理としてバリオン数生成やダークマターの物理が考えられます。標準模型を越えた大統一理論のようなより大きな対称性の中ではCP-like不変な理論があり、そこでのCPの破れが現在の宇宙の物質のエネルギー密度に影響を与えた可能性があります。実際に CP-like 不変な理論における数生成はすでに研究を行っており、今後はその結果を現実の物理に適用する方法を研究します。 またUVの理論との関係性についても調べたいと考えています。超弦理論の有効理論には(一般化された)CP対称性が現れることがあります。実際にそれが対称性になるかはモジュライの期待値によると思われますが、近年のモジュラー対称性やフラックスコンパクト化の議論では対称性がエンハンスした場所にモジュライの値が固定されること多いことが示唆されています。このような場合でCPの破れの起源としてCP-like 対称性が機能する可能性があります。また単にモジュラー不変性などの超弦理論の離散対称性の一部(あるいはそれの組み合わせ)として、CP-like対称性が実現する可能性があります。その可能性について研究していくことを考えています。
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