研究課題/領域番号 |
22K14044
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
向田 享平 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (10772858)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | ヒッグス / インフレーション / アインシュタインカルタン形式 / バリオン非対称性 / スファレロン / ホーキング放射 / LPM効果 / 素粒子論 / 宇宙論 |
研究開始時の研究の概要 |
標準宇宙論と素粒子標準模型の観測的な確立により,素粒子標準模型だけでは宇宙誕生一秒以前の初期宇宙を記述できないという問題が明らかになった.これはより根源的なミクロ理論の存在を示唆し,様々な素粒子実験や宇宙観測が行われてきた.しかし未だその兆候は掴めていない.本研究では,特にヒッグス場を中心に,初期宇宙の極限環境下での素粒子標準模型の振る舞いをより正確に理解することで,この問題解決に必須の要素を今一度問い直す.従来の理解の精密化だけでなく,新たな問題解決の方法やその検証可能性の提案を目標とする.
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研究実績の概要 |
(A) ヒッグスインフレーションのユニタリ性問題:計量形式のヒッグスインフレーションにはユニタリ性問題があり,別の形式の重力理論によるヒッグスインフレーションが注目を集めているが,量子補正が考慮されていない.本研究では,複数の重力理論の形式を抱合するアインシュタインカルタン形式のヒッグスインフレーションに対する量子補正を計算した.ヒッグス場とNieh-Yann項の非最小結合定数を変えることで,軽量形式とパラティニ形式の量子補正を含めたヒッグスインフレーションが滑らかに接続されることを示した.特に,このパラメタを変化させることで,計量形式で出る新たな自由度スカラロンがパラティニ形式に行くにつれて重くなることで脱結合することを明らかにした.現在論文にまとめている最中である. (B) 物質反物質非対称性と電弱相転移:本年度は特に大きなレプトンフレーバー対称性からバリオンができる場合に着目した.研究を進めていく過程で,この大きな非対称性によってカイラルプラズマ不安定性が誘導され,新たなバリオン生成が起こることに気がついた.バリオン過剰生成を避けるために,大きなレプトンフレーバー対称性にこれまで見落とされてきた上限が存在することを示した.PRLに投稿して査読中である. (C) 蒸発する原始ブラックホールまわりでの電弱真空:ホーキング放射によって現在までに蒸発してしまう原始ブラックホールは,蒸発の過程で質量が小さくなりホーキング温度が上がるため,背景のプラズマより遥かに高エネルギーの粒子を生成する.高エネルギー粒子とプラズマの相互作用によって局所高温領域ができる.本研究では原始ブラックホールまわりの温度プロファイルを求め,その最高温度が原始ブラックホールの質量によらないことを示した.電弱真空を誘導するほどは高温ではないが,電弱相転移後に電弱スファレロンが再結合する可能性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒッグスインフレーションとユニタリ性の研究については当初の想定よりも遅れている.一方で,一般的な形で量子補正が議論できた結果,計量形式で存在するスカラロン自由度がパラティニ形式でどのように消滅するかが明らかになった.これは予想よりも綺麗な結果である.バリオン非対称性については,当初の予定から考えると想定外の方向性の進展ではあるが,宇宙で許されるカイラル非対称性に対して比較的一般的に上限を与えることができた.ホーキング放射で蒸発する原始ブラックホールまわりに生成される局所高温領域については,当初の想定通りLPM効果を考慮に入れることが重要で,それを加えた上で温度プロファイルを求めることができた.生成される高温領域は原始ブラックホールの質量によらない普遍的な値であることが示唆されており,これは予想できなかった結果である.以上から,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
(A) ヒッグスインフレーションのユニタリ性問題:当初計画していた通り,まずアインシュタインカルタン形式のヒッグスインフレーションに対する量子補正の論文を完成させる.次は予再加熱期の議論である.計量形式のヒッグスインフレーションでは予再加熱期の爆発的粒子生成によってユニタリ性問題が発生する.量子補正を加えると,スカラロン自由度によって理論のカットオフスケールがプランクスケールまで高くなり,この問題が回避されるようになる.一方で,パラティニ形式では予再加熱期にもそのような粒子生成は起きず,ユニタリ性問題に抵触しない.その代わり,量子補正を加えたとしても理論のカットオフスケールは変わらない.アインシュタインカルタン形式は双方を統合する理論であるため,この全く異なる二つの予再加熱期のダイナミクスがどのようにつながるのかは非自明である.これを明らかにする. (B) 物質反物質非対称性と電弱相転移:当初予定していた,ハイパー磁気ヘリシティが存在する場合の電弱スファレロンの脱結合の理論的定式化を進める.ハイパー磁気ヘリシティが存在するということは系は非一様であり,その下で局所熱平衡が成立する流体的な定式化が必要となる.久保公式を適用することで必要な輸送係数を導き,流体描像と比較することで有効理論を構築する. (C) 宇宙の最高温度:インフレーションを担うインフラトン場は標準模型粒子を生成して熱い宇宙をつくらなければならない.多くのケースでは非常に重いインフラトン粒子が超高エネルギー標準模型粒子を作り,それが熱化していくことになる.申請者の過去の研究ではこうした高エネルギージェットのカスケードに着目していたが,インフレーション終了からインフラトン振動期に移り変わる際,ヒッグス場の揺らぎが生成されこの寄与が重要になる可能性がある.この過程を精査する.
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