研究課題
若手研究
本研究では珪酸塩液体の原子および原子集団の描像を取り込んだモデル化に取り組み、その物性を温度、圧力、組成の関数として予測可能となることを目標とする。そのために珪酸塩液体の各元素の具体的な拡散様式・過程を古典分子動力学法と新規開発する解析手法を用いて明らかにする。本研究で得られる各元素の拡散過程を格子モデルに落とし込むことによって珪酸塩液体の輸送係数を予測可能な物理モデルを構築する。その後に高圧力下におけるシミュレーションも行い、拡散の挙動変化を観察し上述の格子モデルに圧力の効果を取り込むことによって高圧力下における物性の予測を可能なものにする。
本研究の目的はナトリウム珪酸塩液体の分子動力学シミュレーションを行い、その結果を用いて珪酸塩液体中の拡散ダイナミクスを解明し、最終的に温度圧力組成の関数として物性を得られる"微視的視点を持ったモデル"を構築する事である。本年度まで高圧力下に於けるナトリウム珪酸塩液体の分子動力学シミュレーションを行ってきた。組成は二酸化珪素・酸化ナトリウム比が1から4の間で、圧力範囲は0.1 MPaから5 GPaまである。本年度までのシミュレーションを行ってきたが、そこで得られた軌跡データを用いて、結合の解離および生成を粒子と見做すアナンケオンの概念を用いてダイナミクスの解析を試みた。その結果、Si-O結合の交換には二種のダイナミクスがあることを解明した。結合の解離と生成の位置の動径分布関数を求めることで二種の特徴的なピークが得られることは昨年度の研究実績概要でも記したが、今年度はその定量的な解析を行い二種のモーションの圧力・組成依存性を求めた。i番目のSi原子とj番目のO原子が解離し、k番目のO原子と結合を生成したとき、それぞれの中点の座標の二体相関関数を取ると二種の特徴的なピークが現れる。両者に対してピークフィッティングを行い、それぞれの存在度と、その圧力依存性を求めた。その結果、Si原子の自己拡散係数の圧力依存性との比較から、拡散に寄与する結合交換モーションと、そうでないものの区別をすることに成功した。この成果は研究課題のうち、拡散係数のモデリングに大きく寄与する。また、解析手法は他物質の結合交換ダイナミクスの解析への応用も期待できる。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究で得られた成果は、研究課題である珪酸塩液体の動的物性のモデリングに於いて重要な役割を果たす。Si-O結合の交換ダイナミクスは、珪酸塩液体中に於けるネットワーク構成元素の拡散、そして粘性流動の基本となる部分であるから。
本年度に得られた研究成果を報告するため論文を執筆する予定である。また、現在の解析方法では特徴的な交換ダイナミクスの抽出に成功しているが動径方向の情報しか持たないため、より詳細な解析のため方位の情報を抽出する手法を開発、およびアルカリ土類珪酸塩でも同様の傾向が見られるかの確認をすることを予定している。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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