研究課題/領域番号 |
22K14177
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分19010:流体工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
都築 怜理 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (60822153)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 古典系と量子系の等価性 / 量子渦格子 / 回転BEC / 粒子法 / SPH形式 / 超流動ヘリウム4 / 量子格子 / 量子渦 / 量子流体力学 / 粒子法(SPH法) / 並列コンピューティング / 極低温工学 |
研究開始時の研究の概要 |
超流動ヘリウム4の流体挙動は、非粘性流体と非圧縮性ナビエ・ストークス方程式から構成される二流体モデルによって現象論的に記述されるが、古典二流体モデルでは量子効果に起因する渦格子などの特異な現象の再現は難しい。申請者が開発した自転角運動量保存型の二流体モデルはこれらを打破する手法として注目を集めている。本研究ではSPH法の高精度化と分子動力学的モデリングにより二流体成分の分離モデルから混合モデルへとスケールする改良モデルを開発する。バルク状態の量子流体の数値計算を実現し、古典系と量子系を繋ぐ統一的な流体計算スキームの学術的基盤を構築して、低温工学におけるシミュレーション技術の発展に貢献する。
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研究実績の概要 |
昨年度は、二流体モデルにおける非粘性流体の方程式(Gibbs-Duhemの熱力学的関係式で与えられる化学ポテンシャル勾配によって駆動される運動方程式)と、Gross-Pitaevskii (GP) 理論に基づく凝縮体の運動方程式(ボソン系の非線形シュレーディンガー方程式から得られる化学ポテンシャル勾配によって駆動される運動方程式)を Smoothed Particle Hydrodynamics (SPH) 形式で比較した結果、熱力学的な観点で各流体粒子の内部エネルギーがゼロであることを条件とすれば、量子圧力が無視できるような密度変化が穏やかな場合に両者の離散化式の等価性が保証されることを理論的に示した。これは、二流体モデルにおいて、Navier-Stokes (NS) 方程式と非粘性流体の運動方程式との連成は、NS 方程式と GP 方程式の連成と一定条件下で等価になることを示すものである。本年度はこれをシミュレーションによって示す第一段階として、GP 方程式における SPH 形式の有効性を実証した。2 次元調和ポテンシャル下における回転 BEC の挙動を表す GP 方程式の SPH 計算を実施し、量子渦格子現象が再現できることを示した。実験および高精度差分法の計算において過去に観測されている量子渦格子の形成過程の典型的な挙動をSPH法で計算できることを示した。渦格子の形成に要する時間は先行研究より短くなる結果を得たが、SPH 法の空間離散化の精度が高々 2 次精度であることを考えると、これは今後より高解像度化することで解決できる問題である。以上により、量子流体系と古典流体系を SPH 法により統一的に記述するフレームワーク構築の十分な見通しが得られ、今後、古典ー量子接続性の問題も議論することも期待できる。これらの成果は Physics of Fluids 35, 047102 (2023) に掲載され、同誌において Featured Articles (Journal's Best) に選出されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二流体モデルは液体ヘリウムの巨視的ダイナミクスを現象論的に記述する式として一般に認識されているが、これまでは対向流問題を通した議論が中心であった。すなわち、液体ヘリウムの回転問題への適用については殆ど議論されてこなかった。これは液体ヘリウムの回転問題が角運動量が支配的な現象であるからであり、量子力学的な取り扱いが難しくなるからである。申請者の提案する自転角運動量保存型の二流体モデルは、古典的な流体粒子を仮定し、その自転角運動量の保存を考えることでこのような難しさを回避できる点が画期的である。古典流体粒子の取り扱いを可能にするために SPH 法を用いており、これまでの申請者の先行研究では液体ヘリウムの渦格子現象を提案モデルによって再現するものであった。液体ヘリウムは原理的にはボーズ粒子の量子多体系であるので、回転 BEC 系の渦格子の形成過程を SPH 法を用いて再現できたことは、液体ヘリウムの本質的な振る舞いを SPH 法で記述できることが分かったことに等しい。Physics of Fluids 34, 127116 (2022) で示された等価性から、自転角運動量保存型の二流体モデルの非粘性成分の方程式は一定条件下で GP 方程式に置き換えることができるが、その場合、GP 方程式を渦力学過程、Navier-Stokes (NS) 方程式を流体力学過程と考えることができる。それらの連成計算は(単なるボーズ粒子の量子多体系としてではなく)バルクの液体ヘリウムで観測される渦格子現象を記述するものと考えられるので、置き換えを行う前の非粘性流体方程式と NS 方程式の連成計算で観測された渦格子現象と比較することで後者の妥当性を確かめることができる。本研究成果はその第一歩であり、順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
提案する自転角運動量保存型の二流体モデルにおいて、Physics of Fluids 34, 127116 (2022) で示された等価性の成立する条件のもと非粘性成分の流体方程式をGP方程式に置き換えた場合において渦格子形成のSPHシミュレーションを実施し、置き換えを行なう前の方程式系(非粘性流体方程式と NS 方程式の連成系)で観測された渦格子と生成された渦格子を比較することで後者の妥当性を検証する。さらに、対向流問題において SPH シミュレーションを実施し、実験値や差分法による先行研究の文献値と比較することでモデルの正当性を担保する。この際、分離モデルから重複モデルへとスムーズな移行が可能なスケールモデルを開発することに主眼を置いて進める。
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