研究課題/領域番号 |
22K14192
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
磯部 和真 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 助教 (10880180)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 熱放射率スイッチング / メタマテリアル / 二酸化バナジウム |
研究開始時の研究の概要 |
温度の高低によって金属的もしくは絶縁体的な性質を示す二酸化バナジウムのゾルゲル合成に取り組み,高い屈折率スイッチング特性と室温への金属-絶縁体相転移温度の降下を両立させた薄膜を任意の基板上へ成膜し,幅広い温度において屈折率を分析する.この結果を基に二酸化バナジウムを用いたナノスケール構造周囲のふく射場を数値的に解析し,実際に構造を製作することで,太陽光の吸収と地表からの熱放射による冷却現象,それぞれに支配的となる可視から中赤外波長に至る広帯域の熱放射率を周囲温度の高低によって自律的にスイッチングさせるメタマテリアルの光学特性及び伝熱学的に周囲温度へ及ぼす影響を実証する.
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研究実績の概要 |
地表面から宇宙への熱放射により地表から熱が奪われる,いわゆる放射冷却現象を周囲が高温/低温の場合にそれぞれ促進/抑制するため,温度の高低により光物性が大きく変化する二酸化バナジウムを用いたメタ表面(人工的に制御された赤外線放射率を持つ表面)の創成に本研究では取り組んでいる.理論的な側面からは,時間領域差分法による数値シミュレーションとベイズ最適化手法による再帰的な構造探索アルゴリズムを組み合わせ,メタ表面となる微細構造の最適化を行ってきた.その結果,金属基板上に二酸化チタンと二酸化バナジウムを順に積層した多層構造が有望であることがわかり,メタ表面の赤外放射率が極大となる波長を決定する物理現象の起源についての理解も進行させることができた.これらの知見や成果については,2023年度末に国際学術誌や国内誌の英語版にて論文が掲載された. また実験的な側面からは,本構造の中核をなす機能性材料である二酸化バナジウムについて,金属アルコキシドからゾルゲル法を用いた化学的な薄膜の合成を継続して行っている.成膜に用いる基板材料やアニール時の雰囲気条件を適切に整えることにより,比較的純度の低い膜であっても,60℃前後において電気抵抗値や屈折率,赤外反射率などが急峻に変化することを確認できた.また,薄膜状の形態には研究対象を限定せず,粒子状とした二酸化バナジウムの化学合成にも並行して取り組んでおり,こちらの成果についての国際学会発表を本年度中に行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゾルゲル法を用いた酸化バナジウム薄膜の合成手法に関するノウハウの蓄積が進み,二酸化バナジウム結晶を得るための適切なポストアニール条件が確立された.薄膜の場合,60℃前後において金属-絶縁体相転移が確認され,文献値と同程度の電気抵抗値の変化傾向が確認された.可視光に対する屈折率の温度依存性については,近隣の公設試で公開されている共用装置である可視エリプソメータに簡易的な改造を施して測定を行っている.また,分光反射率を測定する光学系を構築し,赤外線に対する反射率の温度依存性についても測定を行っている.電気的な測定において温度変化に伴う急峻な物性の変化が確認された一方で,光学的な測定では物性値の変化幅が文献値よりも小さい結果が得られ,微細構造の設計へ向けた支障となっている.この主因は化学合成により成膜した薄膜の結晶性の低さにあるとみて,追実験を進めている. またメタ表面以外の形態による放射冷却現象の制御として,粒径が数マイクロメートルの微粒子あるいは内部に異種材料を充填したマイクロカプセルとして,二酸化バナジウムを適切な濃度で樹脂中に分散させたシート状物質にも着目している.この形態の場合,二酸化バナジウム粒子の形状や粒子径が重要なファクターとなるため,化学合成によって粒子やマイクロカプセルの精製,ポストアニール条件の最適化を現在進めている.
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今後の研究の推進方策 |
二酸化バナジウム薄膜の成膜手法が物性値に与える影響を明らかにするため,マグネトロンスパッタリングを用いた成膜環境の整備を進めている.酸化物のスパッタリングには反応室内の雰囲気の調整が肝要であるため,必要に応じてノウハウを有している他の研究者から助言を得るなどしながら速やかに最適条件を探索する.その後,ゾルゲル法,スパッタリングのそれぞれによって成膜した二酸化バナジウムの屈折率や反射率を比較し,数値シミュレーションにより提案された微細構造に適した成膜法を検討する.これと並行して,二酸化バナジウム薄膜にサブミクロンスケールの微細構造を施すための電子線リソグラフィー,反応性イオンエッチング装置などの装置の条件導出を引き続き進めていく. また,粒径が数マイクロメートルとなる二酸化バナジウム粒子やマイクロカプセルについても化学合成の条件導出を継続する.特に,核材を高融点の直鎖飽和炭化水素,殻材を二酸化バナジウムとしたマイクロカプセルの合成に注力し,内包物の状態を維持したままバナジウム酸化物の結晶化を進める手法の確立を目指す.これと並行して,数値シミュレーションにより二酸化バナジウム粒子の直径,分散濃度がシート全体の放射率に与える影響の評価を行う.
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