研究課題/領域番号 |
22K14200
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分19020:熱工学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
劉 芽久哉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90872440)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 130千円 (直接経費: 100千円、間接経費: 30千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ソフトマテリアル / 熱拡散率 / 高次構造 / 熱物性計測手法 / カンチレバー / 機能材料 / 温度波熱分析法 / MEMS / 熱伝導率 / 高分子材料 / 微小領域計測 / 周期加熱法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究ではソフトマテリアルを主な計測対象の物資群とした、新たな微小領域の熱拡散率測定手法の開発を行う。プローブ型の熱電対ナノプローブをセンサーとして用い、このマニピュレーションシステムを搭載する顕微鏡をベースとした測定装置を立ち上げ、このシステムの妥当性を検証する一連のサンプルを、微細加工技術によって製造する。これらの測定によって、ソフトマテリアルの局所領域の測定における熱伝導問題を解析するとともに、任意形状を持つ一般的なサンプルの測定についても、サンプルの薄片化などのプロセスを導入することによって実現し、微小な空間におけるソフトマテリアルの熱物性値の実測データを得る手法を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究では、ソフトマテリアルをターゲットとした、新たな局所物性計測手法として、AFMカンチレバー型の温度センサーと、ミクロ集積ヒーターを用いた熱物性計測システムを開発する。ソフトマテリアルは、ミクロスケールからナノスケールにわたって、多様な階層的高次構造を発現することが知られており、これらの材料を微小領域の熱的機能材料として活用する際には、各構造スケールでの実測された熱物性データが必要である。これらのデータ創出を可能にする新規計測手法として、プローブと周期加熱を用いた熱物性計測手法に対する開発の需要が高まっている。 周期加熱を用いた熱物性計測においては、サンプルの一端で周期的な加熱を行ない、そこからある距離d離れた地点で、この周期的な加熱に対するサンプルの周期的な温度応答を計測する。加熱点と計測点での周期的な温度変化の間では振幅減衰と位相遅れが発生し、これらを波の伝搬として解析することで(温度波熱分析法)この二点間の熱物性値を計測することができる。本研究でターゲットとしている、プローブのサンプルに対する直接接触によって、サンプルの温度応答を計測する場合、プローブとサンプル間の熱的な接触状態が、計測される見かけの熱物性値に大きな影響を及ぼす。したがって、本研究の初期の解決するべき課題としては、この接触状態の影響をいかに排除するかということがあげられる。 本年度は、MEMS技術を用いたフォトレジスト構造体をサンプルとして、プローブとサンプルの接触状態を変化させて計測される見かけの熱物性値の変化を実測した。さらにこれらを熱伝導方程式に基づくモデルで解析し、接触状態の変化と計測によって得られた熱物性値に含まれる系統的な誤差の間の関係を示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトではプローブを用いた局所熱物性計測手法の基盤技術として、プローブ先端で検知される温度信号を用いた、近接センシング手法を確立した。これにより、プローブを用いた熱物性計測における、接触熱抵抗の影響が一定化され、接触熱抵抗のばらつきによる見かけの熱拡散率のばらつきを低下させることが可能となった。プローブ先端で検知される温度信号は、サンプルとプローブ間の距離が十分離れている際には、加熱されたサンプルからの輻射や空気の対流を介した伝熱が主な要因となるが、サンプルとプローブが接触した際には、固体-固体の直接接触による伝導が主な伝熱プロセスとなるため、この二つの状態の間では、得られるプローブシグナルにも大きな転移があることが考えられる。本研究では、実際に微小なサンプルとして、フォトレジストによる微小構造体を作成し、これらの上部にセンサーを接近させることで、この伝熱状態の大きな変化を実測し、センサー、サンプルの近接状態の検知として利用した。 カンチレバー型熱電対を、近接センサー、及び温度センサーとして、局所熱物性計測に応用したことにより、より高い精度での周期加熱法を用いた局所熱物性計測が可能になったといえる。 また、これらの検証を行うために、本研究ではモデルサンプルとしてレジスト微小構造体、及びこれらを周期的に加熱するための微小ヒーターアレイについても開発を進めた。開発したヒーター配列デバイスにより、多数の微小サンプルの局所熱物性計測を高速に実施することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、カンチレバー型熱電対を、建設センサー、及び温度センサーとして用いることで、センサー、サンプル間の熱的接触状態を一定化した局所熱物性計測が可能であることを実証した。サンプルとしては、フォトリソグラフィー技術によって製造したレジスト微小構造体を用いたが、今後実際のソフトマテリアルの本手法を応用するためには、サンプルの加工技術についても検討を進める必要がある。 今後の研究推進における課題の一つとして、ミクロトームなどを用いたサンプル微細加工を本手法のサンプル調整ププセスに組み込むことがあげられる。ヒーター基板上に展開されたサンプル薄片は、基板との間に複雑な熱的接触状態を形成することも予想されるため、この影響についても低減、又は一定化させる手法を検討する。 また、現在の測定システムでは非常に熱容量の大きな基板上に加熱デバイスを製造しているため、多くのシグナル成分が基板方向に拡散していることが予想される。この点についても基板の低熱容量化などの改良を検討し、より全体の感度を高めた測定システムの構築を目指す。また、プローブそのものについても、先端形状を含めたジオメトリの最適化を試み、周波数範囲、対象のサンプルの熱物性値に合わせたプローブの設計、製造を確立していく。 全体としては、今年度で実証された計測手法を、より広い測定対象に適用可能な測定システムへと改良し研究目標で挙げた、ソフトマテリアルの高次構造の局所熱物性計測へ向けて研究を推進していく。
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