研究課題/領域番号 |
22K14244
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21010:電力工学関連
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
立花 孝介 大分大学, 理工学部, 助教 (10827314)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 気液界面 / 物理化学 / 分子動力学シミュレーション / 気液界面プラズマ / プラズマ-液体相互作用 / ハロゲン化物イオン / 帯電液面 / 物質移動 / 短寿命極性活性種 / 流体モデル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は,帯電した液面にて反応性の高い化学物質(活性種)がどのようにふるまうかを明らかにすることである。活性種は,その高い反応性を活かして大気中や水中に存在する汚染物質を分解することが可能である。そのため,液面(気相と液相の境界,気液界面)における活性種のふるまいを解明することは,大気汚染物質の分布・移動メカニズムおよび水の浄化メカニズムを理解するうえで非常に重要である。本研究の進展は,「大気中の汚染物質・気候変動の原因物質がどのように大気環境中を移動するかの解明」や「プラズマを用いた環境浄化技術のさらなる発展」につながると考えている。
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研究実績の概要 |
ハロゲン化物イオン(塩化物(Cl-)・臭化物(Br-)・ヨウ化物(I-)イオン)と共存する陽イオン・陰イオンが気液界面プラズマのハロゲン生成特性に与える影響を実験的に調査した。実験の結果,塩化ナトリウム(NaCl)と硫酸ナトリウム(Na2SO4)の混合水溶液ではプラズマ照射による塩素の生成が観測された。NaCl水溶液では塩素の生成が観測されないこと,共存陰イオン(硫酸イオン,SO42-)がハロゲン生成に寄与しないことから,共存イオンの添加によりハロゲン化物イオンの界面濃度分布が変化する可能性が示唆された。 共存イオンおよびハロゲン化物イオン濃度を変化させたときの界面濃度分布を分子動力学(MD)シミュレーションにより計算した。共存陽イオンがランタンイオン(La3+)の場合について計算したところ,Cl-の界面濃度分布がLa3+の有無で変化する様子が観測された。また,NaCl, NaBr, NaI水溶液濃度が1.05, 2.1, 4.2 mol/Lそれぞれの場合で計算したところ,水溶液濃度が高いほどハロゲン化物イオンが気液界面の気相側に寄りやすいことが確認された。 さらに,ハロゲン化物イオンが気液界面の最表面にどのくらい存在するかの指標として,表面被覆率を導入した。新たに作成した表面被覆率の算出プログラムをNaCl, NaBr, NaI水溶液それぞれに用いたところ, I-の表面被覆率がBr-,Cl-の表面被覆率よりも大きいことが確認された。 以上から,共存イオンおよびハロゲン化物イオン濃度の変化を用いてハロゲン化物イオンの界面濃度分布を制御できる可能性が示唆された。適切な共存イオンおよびイオン濃度を選択することにより,短寿命極性活性種の液相浸透深さ(ひいては,気液界面における輸送メカニズム)をより詳細に調査できると考えている。また,表面被覆率の導入についても,実験にて観測されるハロゲン濃度とMD計算の結果を定量的に比較・検討する上で,非常に重要だと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は,表面電位計や大気圧プラズマ等から構成される新たな実験系を2022年度に構築する予定であった。しかし,世界的な半導体不足の影響により,表面電位計の納期が最大で1年となることが判明した。そこで,当初の実施順を変更し,2022年度は気液界面に関する分子動力学シミュレーションを優先的に進めることとした。また,新たな実験系の構築は(表面電位計が納品される)2023年度に変更する一方,表面電位計がなくとも実施可能な気液界面プラズマによる実験を2022年度に遂行し,短寿命活性種の液相浸透深さに関する調査を行った。 針-水面上プラズマ(気液界面プラズマの一種)を用いた実験では,共存イオンおよびハロゲン化物イオン濃度の変化がハロゲン生成特性に与える影響を調査した。実験結果は「研究実績の概要」にて述べたとおりである。今年度の結果から,共存イオンおよびハロゲン化物イオン濃度の変化により,ハロゲン化物イオンの界面濃度分布を制御できる可能性が浮上したため,新たに構築予定の実験系でも同様の条件で実験を遂行する予定である。 分子動力学(MD)シミュレーションでは,共存イオンおよびハロゲン化物イオン濃度の変化が界面濃度分布に与える影響を調査した。さらに,ハロゲン化物イオンが気液界面の最表面にどのくらい存在するかを示す指標として,新たに表面被覆率を導入した。表面被覆率を用いることにより,計算結果と実験結果をより定量的に考察できると考えている。今後の数値シミュレーションでも計算結果から表面被覆率を算出し,実験にて得られるハロゲン生成特性との比較を行う予定である。 表面電位計の納期が予想外に長かったため新たな実験系は構築できなかったが,実施する実験・数値シミュレーションの順番を変更することで対応した。そのため,研究計画全体は問題なく進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
表面電位計や大気圧プラズマ等で構成される新たな実験系を構築する予定である。当初は2022年度に構築予定であったが,世界的な半導体不足により表面電位計の納品が遅くなったため,2023年度に実施することとした(「現在までの進捗状況」にて述べた通り)。表面電位計は既に発注済みであり,2023年度に納品されることがわかっている。そのため,表面電位計が納品され次第,新たな実験系の構築に必要な他の部品・材料を速やかに発注することで,できるだけ早い時期に新たな実験系を完成させる予定である。 実験系の完成後は,液面の帯電量を制御しながら気相から液面へOHラジカルを供給し,水溶液中にて生成されるハロゲン濃度を測定する。さらに,水溶液中のハロゲン化物イオン濃度や共存イオンの変更によりハロゲン化物イオンの界面濃度分布を変化させ,各条件にて生成されるハロゲン濃度を観測することで,OHラジカルの気液界面における挙動を詳細に調査することを予定している。 分子動力学(MD)シミュレーションに関しては,帯電液面に関する計算および界面における自由エネルギー分布の計算を進める。計算対象となる水スラブ(水分子の集団)にあえて過剰のイオンを添加することにより,気液界面における帯電をMDシミュレーションにて模擬する。MD計算で帯電液面を模擬できたら,計算結果からハロゲン化物イオンの界面濃度分布や表面被覆率を算出し,帯電量や水溶液の組成がそれらに与える影響を明らかにする。また,表面被覆率に加えて,界面における自由エネルギー分布を計算結果から算出し,各条件(様々な帯電量,水溶液の組成)におけるハロゲン化物イオン,OHラジカル等の界面活性を定量的に評価する。得られた計算結果を実験結果と比較することにより,短寿命極性活性種の気液界面における輸送メカニズムを明らかにする予定である。
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