研究課題/領域番号 |
22K14285
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新屋 ひかり 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (60784709)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 第一原理計算 / スピントロニクス / KKR-CPA法 / 線形応答理論 / 強磁性半導体 / KKR-CPA法 / KKR-CPA |
研究開始時の研究の概要 |
スピントロニクス材料の開発の際にはデバイス動作温度における伝導特性や磁気抵抗(MR)比、トンネル磁気抵抗(TMR)が重要な指標とされるが、基底状態を記述する第一原理計算ではこれらの物性を正確に評価することは困難である。 そこで本研究では、まずコヒーレントポテンシャル近似を用いて温度効果を第一原理計算に取り入れ、線形応答理論により伝導特性を計算することでこの問題を克服する。また、ヘテロ構造や積層構造に対する伝導特性の計算を行うことでMR比やTMR比も計算可能とする手法の開発を行い、スピントロニクス材料として有望な物質の探索を行う。
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研究実績の概要 |
新しい高機能デバイスにふさわしい物質を発見するためには動作温度における電気伝導特性が重要な指標となる。しかし、第一原理計算は励起に関する現象である温度効果や伝導特性の取り扱いは不得手である。有限温度における電気伝導特性が第一原理的に正確に評価できるようになれば、材料開発速度が飛躍的に向上すると期待される。 本研究では従来の計算機マテリアルズデザインの限界を超えるため、第一原理計算コード「AkaiKKR」の開発を行っている。温度効果(電子-フォノン散乱や電子-マグノン散乱)はKKR-CPA法を利用して取り入れ、励起状態である伝導現象は線形応答理論を用いて記述することで、有限温度における電気伝導特性の定量的な評価を可能とした。 本手法は既にいくつかの金属系で成功を収めているが、今年度は計算対象の幅を広げるために強磁性半導体に適用した。有名な強磁性半導体の1つである(Ga,Mn)Asでは、低温域では温度が上昇すると電気抵抗率が増大し、高温域では温度の上昇に伴い電気抵抗率が減少する。一般的に、金属の電気抵抗率は温度が上昇すると増大する一方で、半導体では温度の上昇に伴い電気抵抗率が減少するので、(Ga,Mn)Asにおける電気抵抗率のふるまいは非常に特異な現象である。この特異なふるまいの原因は解明されていないが、強磁性半導体の応用開発を行うにあたり電気伝導特性を左右する要因を明らかにすることは重要なミッションである。 そこで本研究では、上述の手法を利用することで(Ga,Mn)Asの電気伝導特性を世界で初めて第一原理的に再現することに成功した。さらに、低温ではスピンゆらぎが、高温では原子振動の効果がそれぞれ優位に働いていることを明らかにした。このように本手法は複数の電子散乱効果をミクロな観点から議論することができるため、物性予測だけでなく、輸送現象のメカニズムの解明にも有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
強磁性半導体である(Ga,Mn)Asではキュリー温度を境に電気伝導特性が金属的から半導体的へと切り替わることが知られている。本研究ではこの温度依存性の再現に成功し、電気伝導特性の異常性には格子欠陥の存在が大きく寄与していることを明らかにした。 (Ga,Mn)Asにおける伝導特性の異常性は30年来の謎であった上に、電気伝導特性を左右する要因を明らかにしたことは強磁性半導体の応用開発を行うにあたり非常に重要な成果である。それを示すように、本研究内容はプレスリリースが行われ、複数のメディアからも報道が行われた。さらに、この成果により国内外から複数の招待講演依頼があり、世界的にも高く評価されていることが伺える。
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今後の研究の推進方策 |
スピントロニクス材料開発の際に重要な指標となるMR比やTMR比の算出を行う。そのためにヘテロ構造や積層構造に対する第一原理計算を実行する。従来のMR比やTMR比の予測に対しては伝導がバリスティックである(微視的な散乱過程を完全に無視する)という仮定が用いられてきたが、本研究では現実物質をより再現するためにミクロスコピックな散乱(不純物散乱、電子-フォノン散乱、電子-マグノン散乱)を考慮に入れた計算を実行する。
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