研究課題/領域番号 |
22K14288
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅視 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (60763852)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | AlN薄膜 / 弾性波 / BAW共振子 / 分極反転多層膜 / 分極制御 / 圧電デバイス / バルク弾性波フィルタ / 分極反転構造 |
研究開始時の研究の概要 |
現在,バルク弾性波(BAW)デバイスは移動通信端末用の周波数フィルタとして実用化されている。しかし,5GHz以上の動作周波数が要求される次世代周波数フィルタは従来の材料(AlN圧電膜),デバイス構造(電極/AlN圧電膜/電極)では実現が困難である。そこで本研究では,「膜厚は維持したまま高周波化が可能な分極反転構造」と「高い電気機械結合係数」を実現する新たなAlN圧電膜の創成とその膜を用いた5~10 GHzで動作可能な高次モード共振BAWフィルタの開発に挑戦する。
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研究実績の概要 |
我々の周りには様々な周波数の通信用電波が飛び交っており,周波数フィルタはテレビ,携帯電話,無線LAN等に必要不可欠である。一方,スマートフォンやタブレット等の急速な発達・普及,センサネットワーク社会等を実現するために,大容量・高速で通信可能な高周波数帯を用いる通信システムへの移行が予想される。よって次世代周波数フィルタも高周波化が必須である。現在,バルク弾性波(BAW)フィルタはスマートフォン内部に数10個搭載され,移動体通信産業を支える極めて重要な役割を果たしているが,高周波電波通信に対応する次世代BAWフィルタには「4 GHz以上の高周波動作」「広い通過帯域幅(電気機械結合係数=10%以上)」「高い急峻性(Q値=1,000以上)」「高い耐電力性(1 W以上)」の両立が求められる。しかし,従来の圧電薄膜材料(AlN圧電膜),デバイス構造(電極/AlN圧電膜/電極)ではこれらの性能を両立することは困難である。一方で,n層分極反転構造BAWフィルタでは,n次モードで共振する。従来構造と同膜厚でn層の分極反転膜を形成した場合,動作周波数は従来構造のn倍となり,高周波化が可能となる。また,1層分の層厚を保ったまま層数を増やしても動作周波数は変化しない。よって膜厚も十分に確保できるため,耐電力性や機械的耐久性の向上に繋がると考えられる。そこで本研究では,「分極反転構造」からなる新たなAlN系圧電膜の創成とその膜を用いた5~10 GHzで動作可能な高次モード共振BAWフィルタの開発に挑戦する。 具体的には。以下の理論的・実験的検討を行う。 ・数値,理論解析による分極反転多層膜BAWデバイスの最適構造探索 ・AlN系膜における分極制御技術の開発および分極反転多層構造膜の形成 ・5 GHz以上で動作する分極反転多層膜BAWデバイスの形成・特性評価
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度には以下の研究成果が得られた。 ①数値,理論解析による分極反転多層膜BAWデバイスの最適構造探索 圧電層,電極膜の材料,分極反転の層厚,層数をパラメータとし,BAWデバイス周波数特性をMasonの等価回路モデルにより解析を行った。特に5GHz以上の動作で顕著に表れる電極の質量負荷効果による帯域幅の減少,動作周波数の低下等の特性劣化を分極反転多層膜を用いることで抑制できることを確認した。また,n層分極反転構造では,圧電定数がn倍,弾性定数がn^2倍となることも明らかした。 ②AlN系膜における分極制御技術の開発および分極反転多層構造膜の形成 RFマグネトロンスパッタ法を用いてAlN薄膜,SiAlN薄膜,GeAlN薄膜,SiAlN/AlN,GeAlN/AlN多層膜を形成した。Si,Geをドープすることで分極方向がAl極性からN極性へと反転する一方で,SiAlN,GeAlN薄膜の結合係数はドープ濃度が上昇するにつれて減少することを明らかにした。Al極性AlN膜とN極性SiAlNまたはGeAlN膜を積層することで分極反転構造が形成でき,2-8層分極反転SiAlN/AlN,GeAlN/AlN薄膜基板付き共振子では層数にあった高次モードでの共振を確認した。各層を形成するごとに結合係数が低下することがわかった。この低下は積層する毎の結晶配向性劣化,各層間に無圧電性の不純物層が生じていることが要因だと考えられる。 以上の結果から,目標達成には解決すべき課題はいくつかあるが,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
①数値,理論解析による分極反転多層膜BAWデバイスの最適構造探索の続き 分極反転構造他元素ドープAlN系薄膜BAWデバイスの周波数特性をFEM解析(2-3次元解析)により解析を行う。2022年度に行ったMasonの等価回路による1次元解析の結果も踏まえながら,分極反転構造,電極構造,音響ブラッグ反射層の設計,および分極反転多層膜BAW共振子での高性能化の原理を検討する。 ②高品質な分極反転多層膜の形成方法の考案と5GHz以上で動作する分極反転多層構造BAWデバイスの形成・特性評価 分極反転多層膜形成時に積層するごとに膜の結晶配向性の劣化,デバイス応用した際に結合係数が低下することが課題となっている。そこで,成膜条件のさらなる探索(基板温度,ターゲット材の検討等)と各層を連続成膜(形成中に試料を大気に触れさせない)できるように成膜装置の改造を行い,高品質な多層膜の形成を目指す。分極制御が達成したSi,Geドープを結合係数増幅が可能なScドープAlN膜に適用できるか検討も行う。加えて,数値解析で得られた高周波動作に最適な構造を持つ分極反転構造AlN系薄膜BAWデバイスを形成する。ネットワークアナライザを用いて周波数特性を測定し,動作周波数,急峻性,帯域幅,温度安定性等の特性評価,また従来BAWデバイスとの優位性,フィルタ応用への問題点を明らかにする。 これらで得られた研究成果を取り纏め、論文投稿・学科発表を行う。
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