研究課題/領域番号 |
22K14441
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分25010:社会システム工学関連
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
吉岡 秀和 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (70752161)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 確率制御 / 前進-後退確率微分方程式 / HJB方程式 / 河川 / 環境管理 / 無限次元確率微分方程式 / 確率制御理論 / HJB(I)方程式 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は,河川という人間生活に身近でありダイナミックかつ不確実に変動する環境を対象として,河川を流れる水の量や質,ひいては河川生態系を御するための環境管理戦略を構築することである.とくに,近年,数理的な理解が大幅に進んでいる最適性方程式である前進-後退確率微分方程式(FBSDEs),ならびに表裏一体の関係にあるHJB方程式を用いたモデリングによる目的の達成を目指す.
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研究実績の概要 |
2022年度における主要な研究実績は,以下に示す通りである.いずれも河川環境のモデリングに関わる実績であり,現地調査におけるデータや知見を活用したものとなっている. まず,河川流量(単位時間あたりに河道を通過する水の量を)について,重ね合わせオルンシュタイン=ウーレンベック過程(supOU過程)や重ね合わせ連続状態分岐過程(supCBI過程),すなわち無限次元確率微分方程式に基づく数理モデルを構築できた.これらのモデルの利点は,既存モデルと比較してより広い条件下で流量の自己相関係数を記述できる点,にある.例えば,複数河川における流量の1時間毎データが劣指数関数的な自己相関を有することを確認した一方,既存モデルのほとんどは指数関数的な自己相関を仮定しているためにこの結果と整合しない.上記の無限次元確率微分方程式は,劣指数関数的な自己相関係数をカバーすることができ,なおかつ主要な統計モーメントが解析的に求まるため,既存モデルと比較して実問題に格段に応用しやすい.実際に,この性質を活用して実河川でのモデル同定に成功した. また,無限次元確率微分方程式に依拠して,河川管理に関する制御問題も提案できた.例えば,係数が時間周期的な2次制御問題という制御問題の中でも簡素な型を対象としたが,supOU過程の無限次元性から最適性方程式も無限次元となる.マルコフリフトと呼ばれる有限次元近似により無限次元性の困難を克服できることを示し,島根県斐伊川における実データにより,最適流量制御のパレートフロント等の数値計算結果を得た.supCBI過程についても,同様に確率制御問題を立式して数理・数値解析を行うことが可能であることを確認している.また,本研究や先行研究のモデル基盤や解析手法に基づいて,河川への土砂還元や湖沼における水草繁茂管理など,多様な工学的問題にアプローチできる可能性を見出すことができた,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度は,理論と現地調査の双方について,大きなアクシデントなく,極めて順調に進展しているといえる. まず,理論面について,前進後退確率微分方程式,ならびにこれと双対の関係にあるHJB方程式の双方について,理論的な理解が格段に進歩した.例えば,それらの解の存在条件や形状,両者が一致するための十分条件を得ることができた.また,これら方程式に対する数値計算手法についても開発することができており,実データによって同定されたモデルを用いた計算結果の出力を実現するに至っている. つぎに,現地調査について,島根県斐伊川において設置してある水文観測地点において,当初の研究計画通りの観測を行うことができた.一部期間において,大規模な出水が原因とみられる機器の不具合によりデータを取得できなかったが,理論構築を行う際の障害となる程度には至らなかった.また,斐伊川漁業協同組合と連携した調査体制も継続しており,当初予定していたよりも良い質と量で,斐伊川における環境・生態データの収集に成功している.さらに,島根大学内において斐伊川の水文水質を専門とする研究者から,斐伊川中・下流域における長期間の実測データを得ることができた,これを今後の研究材料として用いることができる. さいごに,研究成果の発信については,国内外における学会発表,英文論文の投稿や出版,さらには漁協と連携したアウトリーチ活動によって行うことができている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,2023年度4月における応募者の異動に伴い,石川県内における主要な河川にも対応することができるような数理モデル構築を目指す.ただし,斐伊川における調査・研究については,地元漁業協同組合の協力の下,継続する.また,応募者の異動前後で研究設備環境が大きく変化した.そのため,2023年度の前半では各種分析・解析のための環境を整備していくことに重点を置く.さらには,本研究での活動を通して,保険数理等,現象として全く異なりつつも数理的なつながりを見出せた分野における研究者との交流を深めることができた.今後とも,研究を通した人的ネットワークの拡充に努めていき,より発展的な課題を対象とした後続研究にスムーズに繋がるようにしていきたい. より具体的には理論面について,以下の個別課題に取り組んでいきたい.2022年度の研究において,(前進)後退確率微分方程式による河川流量解析への応用可能性が確認できたため,今後,流量のみではなく各種水質項目(全リン,全チッソ)等についても同手法を用いることが可能かどうかを検討する必要があるが,既に,萌芽的結果を得ている. 現地調査面について,斐伊川ならびに石川県内河川における水文観測を行っていく.前者については,2022年度までの観測体制を継続する.後者については,2023年度序盤にアクセスが良い観測地点を踏破調査することで,継続的な定点観測を実現できるサイトを選定する. さいごに,これまで継続してきたアウトリーチ活動の継続にも努めたい.また,研究成果発信の方向性についても再検討したい.例えば,これまでは代表者のFacebook等からの成果発信を行っていたが,より波及性が大きい方法についても模索していきたい.他研究者を巻き込んだ,さらに大きく環境管理に貢献できる研究へと後続させるための準備も進めていきたい.
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