研究課題/領域番号 |
22K14454
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分25030:防災工学関連
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
和田 孝志 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (60832996)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 土石流 / 流木閉塞 / 勾配変化 / 粒度偏析 / 水路実験 / 複合的氾濫 / 数値シミュレーション / 被災リスク評価 / 縦断的遷移 / 密集市街地 / 避難所有効性 / 被害想定 / 局所的地形 |
研究開始時の研究の概要 |
市街地内の土石流・洪水流複合氾濫対策に資するため,複数の土石流・洪水流を同一時間軸で解析し,かつ,道路狭窄部・橋梁部での大礫・流木閉塞を予測可能な数値計算モデルを開発する.開発モデルでは,谷筋上の流動を解析する1次元計算に①谷筋勾配変化の影響を考慮した大礫・流木偏析モデル,市街地内氾濫を解析する2次元計算に②大礫・流木閉塞の発現評価モデルを組み入れる.①,②は水路実験をもとに構築する. 複数の土石流発災シナリオに対する開発モデルの解析結果を重ね合わせ,市街地内の建物・水路・道路網等の人工物配置による土石流閉塞や氾濫範囲変化の発現可能性を評価し,市街地での土石流被災リスク偏在性評価手法を提案する.
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研究実績の概要 |
令和5年度は,当初計画で予定していた「市街地内狭窄部での流木閉塞発現評価式の構築」に向けて,柵状部(橋脚部)での流木捕捉過程に対する流木の到達形態(到達流木密度)の影響を水理実験により把握した.流木の到達形態(到達流木密度)を変化させるため,従来の「定常洪水流への流木供給(定常流型)」と,土石流中の流木流下を想定した「先頭部段波に含有された流木供給(先頭部集積型)」の2種類の流木供給条件で実験を行った.この結果,「先頭部集積型」では流れの先頭部で集積した流木が高頻度に衝突し,長軸方向が流向と平行となる流木が多数発生することで流木捕捉率が低下すること,流木供給量よりも到達流木密度のほうが流木閉塞への影響が大きいことが確認された.流木捕捉率に関する既往成果・実験式との比較では,「定常流型」,「先頭部集積型」どちらの結果も既往成果との整合性が高いことが確認できた.これらの知見は流木閉塞発現評価式の構築の基礎資料となる. 「谷筋勾配変化に伴う粒度偏析変化モデルの定式化」においては,2段階可変勾配水路を用いて勾配変化点後の土石流水理量や大小砂礫存在割合を段階的に計測し,勾配変化が土石流の流動特性と大小砂礫の挙動・偏析に及ぼす影響を把握した.この結果,土石流を構成する砂礫サイズ,土石流流量等によって,輸送土砂濃度,先頭部粒度偏析,先頭部流動深の遷移順序・タイミングが異なることを確認し,定式化の基礎となる多くの知見を得ることができた.また,土石流の主要成分である流動深の0.01倍オーダー粒径成分の粒度偏析過程についても水路実験であわせて確認している. 昨年度より進めている「市街地内の土石流被災リスク偏在性評価手法の検討」では,昨年度成果をとりまとめ,対象地域の複合氾濫時の被災リスク偏在性評価と一次・二次避難目的地への移動安全性に関する評価手法を一般化し,その有効性を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は,柵状部(橋脚部)での流木捕捉過程に関する水理実験より,実際の土石流で想定される「先頭部集積型」での流木供給が流木捕捉量,閉塞後の水位堰上げ等に及ぼす影響について系統的な実験データを得ることができた.これらの基礎データから,実現象に即した妥当性の高い「流木閉塞発現評価モデル」を構築することは十分可能である.ただし,評価式構築に向けて,次年度も引き続き水路実験を行い,基礎データの蓄積を行う必要がある.特に,「狭窄部での巨礫捕捉過程」および「谷筋勾配変化に伴う流木偏析変化」についてはデータの蓄積が不十分であるため重点的に実施する必要がある. 「谷筋勾配変化に伴う粒度・流木偏析変化モデル」については,土石流を構成する砂礫サイズ,土石流流量等によって,土石流水理量ごとの遷移順序・タイミングの傾向を確認し,定式化の基礎となる知見を得ることができた.すでに,これらの土石流水理量を指標とした勾配変化による遷移完了の程度を示す評価式構築を試みており,定式化の検討段階に入っている. 次年度は,本研究の最終段階として,上記2つの評価モデルを土石流・洪水流複合氾濫モデルへ導入し,巨礫・流木挙動を加味した被災リスク評価が可能となる計算モデルを構築する.なお,計算結果に基づく密集市街地内の被災危険度に関する指数化については,令和4年度より先行的に進めているため,進捗においてはアドバンテージがある. 上記のように,本研究で構築を目指している2つの評価モデルは,概ねその定式化の基礎となる知見を見出しており,次年度の数値シミュレーションへの実装が十分可能である.また,構築モデルを活用した実スケールでの被災リスク評価手法については,すでに手法の一般化まで到達しており,今後は対象地域を増やした広域展開を行い,更なる妥当性検証を進める予定である.以上のことから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は,まず実験データ蓄積が不十分である「狭窄部での巨礫捕捉過程」および「谷筋勾配変化に伴う流木偏析変化」に関する水路実験を進める.狭窄部での巨礫捕捉過程については,土石流先頭部に集積している巨礫が極端な断面変化によってどのような堆積(閉塞)過程を示すのか,その過程に影響を及ぼすパラメータはどのようなものか検証する.勾配変化に伴う流木偏析変化では,流下に伴って流動表層部に上昇し,表層部の速い流速に乗って先頭部に集積した流木群が,勾配変化を受けてどのように存在位置を変化させるかについて,勾配変化点下流側で流木存在割合等を計測することで把握する.並行して,勾配変化点通過後の計測データ(輸送土砂・流木濃度,流動深,砂礫・流木存在割合,砂礫・流木の輸送速度)を確認する.前年度までに蓄積された実験データと本年度得られた実験データに基づいて,「流木閉塞発現評価モデル」および「谷筋勾配変化に伴う粒度・流木偏析変化モデル」の構築と妥当性検証を進める.モデル構築では,実験データに基づいた式として簡易的に組み立てるが,勾配変化パターンや土石流規模,土石流粒度構成等の条件を様々に変化させて多様な条件下に対応可能な定式化を目指す. 次年度後半には,本研究で構築を目指している「巨礫や流木の偏析・閉塞過程を考慮した土石流洪水流複合氾濫モデルの開発」への実装を行う.構築モデルにより実験結果の再現性を確認するとともに,既往の洪水流・土石流複合氾濫災害を対象に再現解析を行い,被災時の痕跡水深,堆積土砂厚,狭窄部閉塞実績と再現計算結果を比較し,開発モデルの妥当性検証を行う.また,複数の土石流発災シナリオに対する開発モデルの解析結果を活用した対象地域の被災リスク偏在性および最適避難行動に関する評価手法を確立し,その有効性・汎用性を検討する.
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