研究課題/領域番号 |
22K14529
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分27010:移動現象および単位操作関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
萩尾 健史 名古屋大学, 未来社会創造機構, 助教 (40808648)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | ナノポーラスhWO3 / 緻密膜 / 結晶成長制御 / 多段合成 / 分子ふるい / 水素分離 / グリーン水素 / 水素精製 / 分離膜 / ナノポーラスWO3 / 分離メカニズム |
研究開始時の研究の概要 |
水素は次世代を担うクリーンエネルギー資源であり、中でも光触媒などを利用した水を出発源とするグリーン水素製造は重要な位置を占める。しかし、水素の製造過程では他のガス成分も副生するため、省エネルギーな分離・精製技術が必要となる。分子をサイズによって篩い分ける分離膜は次世代の省エネルギー分離・精製技術として期待されている。本研究では、水蒸気や酸素・大気共存下で水素が高度に分離可能な新規の結晶配向ナノポーラスWO3分離膜を提案し、その開発およびガス透過・分離メカニズムの解明を試みる。
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研究実績の概要 |
水素は、カーボンニュートラルの実現にとって重要な次世代を担うクリーンエネルギー資源である。本研究は、c面にナノ細孔をもつ六方晶WO3(ナノポーラスhWO3)の結晶配向した緻密膜を形成し、水分解から得たグリーン水素を分離・精製するナノポーラスhWO3分離膜を開発するとともに、この新規膜のガス透過・分離メカニズムを解明することを目的としている。 初年度は主に原料組成、合成環境の影響を調査し、ナノポーラスhWO3の配向した緻密膜形成に必要なa軸方向に結晶成長が促進され、かつチューブ状多孔質支持体内壁に適用できる作製条件を精査した。原料溶液中のW濃度を調整することで内壁にナノポーラスhWO3が直接合成できることを見出したが、その一方で、原料溶液中のW濃度を希薄化して酢酸/W比を高くする方がa軸方向の成長が促進されること、W濃度を希薄化すると膜全体としては原料の供給不足によって緻密化が完了しないことが確認された。そこで、チューブ状多孔質支持体上へのナノポーラスhWO3分離膜の緻密膜合成対策として多段回合成について検討をを行った。原料溶液中のW濃度を調整しながら合成を繰り返し行うことで、細孔より大きいSF6のガスの透過量が大幅に低下し、膜が緻密化できることが確認された。更に、大きさの異なる単成分ガスの透過試験を実施したところ、小さい分子であるHeとH2の透過が高い一方で、CO2やN2、SF6等のガスの透過が低くなっていることが確認され、H2とCO2の分子の間の大きさで透過量の大幅な低下(カットオフ)が発生することが確認された。開発した膜は欠陥がまだ一定量存在するものの分子を大きさで分けることのできる膜となること、およびその分離機構が分子ふるいであることが示唆された。次年度は、更なる欠陥対策や混合ガスでの特性を調査し、膜のポテンシャルとその分離メカニズムの解明を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は支持体の表面改良や原料組成、合成環境の影響を調査し、ナノポーラスhWO3の配向した緻密膜形成に必要なa軸方向に結晶成長が促進され、かつチューブ状支持体内壁に適用できる作製条件を精査することを目標として掲げてきた。支持体の表面改良時に表面にクラックが発生する問題が発生しているが、ナノポーラスhWO3膜の合成にかかる原料組成や合成環境(合成温度等)の影響調査は順調に進んでおり、且つ原料組成の違いで成長形態が異なることから繰り返し合成にて膜の緻密化を促進できることを見出す(論文査読対応中)など、ガス分離が可能なレベルまで緻密な膜をチューブ内壁に合成できてきている。また、色素のしみ込みで欠陥を調査する染色試験も順調に進めることができており、膜欠陥の低減に向けて対策をフィードバックできていることから膜作製自体は順調に推移していると考えている。 一方、令和5年度に膜の水素分離性能を評価するため、令和4年度中に水素濃度検知装置を導入する予定でいたが、半導体不足と戦争等による原価高騰のあおりを受け、輸入品である同装置の価格が2.5~3倍程度上昇し、金額的に購入ができないという問題に見舞われた。現在、価格交渉および代替装置の検討を進めているが、すぐに装置が導入できないことから、令和5年度の準備にやや遅れが生じている。早急に評価装置を選定・導入し、早期の分離試験開始を目指す。 以上より、装置導入といった次年度の準備にやや遅れが生じているものの、本年度の主な目標であった膜合成が順調に推移していることから、総合的に見るとおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、令和4年度に調査した欠陥種に対する具体的な対策を行い、水素分離に適用できるレベルまで欠陥を低減し、緻密化した膜の開発を行うとともに、同膜で単成分ガス透過特性および水蒸気の非共存/共存下で水素分離試験を行うことで水素分離への本膜のポテンシャルを確認し、ガス透過・分離メカニズムも明らかにすることを目標する。 欠陥低減については、繰り返し合成品の欠陥染色の解析を進め、残る欠陥をなくすように繰り返し合成の条件調整と支持体表面の改良を完成させて組み合わせることで、改善を図る。実際、水素と二酸化炭素の間の大きさで透過量が大幅に低下することまでは確認できるレベルの膜ができてきている。膜合成時の欠陥生成を低減するのみならず、欠陥の微粒子による補修等も視野に入れ、総合的に欠陥低減を進め、水素分離に適切なナノポーラスhWO3緻密膜の形成を目指す。 ガスの分離試験ついては、価格高騰で購入ができなかった混合ガス組成の評価装置を早期に決定し、導入することで、分離試験をできる環境を整備する。同装置が導入され次第、分離試験による評価を進め、単成分ガスとの透過挙動比較や欠陥染色試験との関係性を整理し、本膜の実質的な水素分離性能とそのポテンシャルを明らかにする。 また、透過メカニズムの推定のため、単成分ガスで透過が減少する分子サイズと細孔径の関係を整理するとともに、粉末等を利用したガス成分の吸着試験も実施することで、物理的な分子ふるい効果や親和性による影響等を検討し、分離メカニズムの解明を試みる。
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