研究課題/領域番号 |
22K14570
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
岡田 光博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (10824302)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 化学気相成長 / 結晶相制御 |
研究開始時の研究の概要 |
準安定相VI族遷移金属ダイカルコゲナイド(transition metal dichalcogenides, TMDs)は、トポロジカル絶縁体/超伝導体や水素発生触媒等の特性を持ち、21世紀の物質科学探求の場として高いポテンシャルを持つ。しかし、試料作製の困難さがボトルネックであるため、実験的な新規物性探索が進んでいない。 本研究では、ボトムアップ的な手法でTMDs結晶相制御技術を確立するとともに、(1)準安定相TMDsの基礎物性探索、(2)準安定相-最安定相TMDsラテラルホモ接合デバイス形成とその物性探索を通し、準安定相TMDsの学理創出を目的とする。
|
研究実績の概要 |
今年度は、まずはWS2の結晶相制御技術開発と、基礎物性探索に注力した。 成長条件の検討を行い、純粋な準安定相、純粋な最安定相、そしてこれらがマイクロメートルスケールで入り混じった"heterophase monolayer"が成長できないか検討を行った。結果、原料として用いている硫化水素の濃度、添加している塩化ナトリウムの量、基板の設置位置、反応時間を制御することで、純粋な準安定相、純粋な最安定相及び"heterophase monolayer"の結晶相を作り分けることに成功した。準安定相の成長には高い硫化水素・塩化ナトリウム濃度が必須であると突き止めた。特徴的な点として、"heterophase monolayer"試料は成長中に局所的に準安定相から最安定相への結晶相変化が起きて成長していることが明らかと知った。"heterophase monolayer"試料は、今後の研究遂行の基礎になるものであり、安定して成長させる条件が得られたことは極めて重要である。 また、準安定相WS2の物性探索の一環として、抵抗率の温度依存性を調べる実験を行った。結果、2層の準安定相WS2(成長時に単層試料と同時に得られる)は、約3 Kにて抵抗率の急激な低下を示すことを見出した。磁場を印加するとこの抵抗率低下が消えることから、準安定相WS2の超伝導発現を発見した。また、上部臨界磁場には異方性が存在し、面内に磁場を印加した際は、面直に磁場を印加した際より上部臨界磁場がはるかに増大・パウリ限界を超えることも確認した。 以上の成果はRamanマッピングや電子顕微鏡観察、X線光電子分光分析などと併せ論文を投稿、8月にACS Nano誌へ掲載された。また、本成果について学会発表を行い、フラーレン・ナノチューブ・グラフェン学会より第19回 大澤賞を受賞するに至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定であった「結晶相制御されたTMD成長技術の確立」は、ほぼ達成できたと考えている。「研究実績の概要」欄の通り、純準安定相WS2、純最安定相WS2、"heterophase monolayer" WS2の成長技術を確立しており、その結晶相純度は主に硫化水素と塩化ナトリウムの濃度に大きく影響されることも突き止めている。また、相同定に必要な技術についても検討しており、現状ではRaman分光だけでも十分相同定が可能であると考えている。これは、準安定相と最安定相のRaman散乱ピーク位置と強度が全く異なる(特に、532nm励起では、共鳴効果により最安定相のRaman強度が極めて強い)ため、350 cm-1付近に現れる最安定相のRamanピークの有無のみである程度結晶相純度判断がつくためである。 また、準安定相WS2の物性探索についても、十分成果を挙げられたと考えている。まず、転写や電子線リソグラフィ・蒸着・リフトオフプロセスの課題洗い出しを行い、極低温下での電気伝導測定・バックゲート印加しての電気伝導測定に適した基板への転写と、試料への高い位置精度を持った電極取り付けを再現性よく行うことを可能とした。そして、上述の通り2層試料における超伝導の観測と、そこに至るまでに試料成長条件・加工技術へのフィードバックを進めることが出来た。特に、試料の大気暴露時間を減らすことが重要であるとわかり、取り扱いの変更によって試料品質を落とさず多様な測定を行うことを可能とすることが出来た。 更に、得られた成果について、ハイインパクトなジャーナルへの掲載、学会賞受賞など、成果発信も十分行えている。 以上の点より、現在までの成果は当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、以下の2点を考えている。 まず、準安定相WS2のRaman散乱への理解を深める。これは、準安定相WS2の物性探索の一環として行う。準安定相WS2は単斜晶系の物質であるため、物性に異方性が存在し、その理解は今後の物性探索と応用に必要不可欠である。例えばRaman散乱では、Ramanピークに偏光の入射・検出角度依存があり、これを利用することで準安定相WS2の結晶方位を同定することが可能となる。当初予定が進んだ時間を用いて、準安定相WS2のRaman散乱応答についての研究を進めることとした。これは、今回申請者は、化学気相成長という安定な結晶形状が得られる方法を取ったため、方位については光学顕微鏡像からある程度判別できると考えていた。しかし、実際にはその成長機構が特殊であり、試料は必ず多結晶で成長・光学顕微鏡像からの結晶方位の判断が難しいとわかった。このため、結晶方位を判断する技術が新たに必要となったのである。これについては、試料Raman散乱の偏光依存(直線偏光励起・検出及び円偏光励起・検出)を測定し、群論・DFT計算と併せてピークの解析を進めていく予定である。 また、上記偏光Ramanに加えて、当初予定にあった通りの"heterophase monolayer"についても、その界面の物性探索を行う予定である。まずは、得られた"heterophase monolayer"試料の、準安定相・最安定相部分双方に対し電極を取り付け、その電気伝導を調べる。また、得られた試料に対しケルビンプローブフォース顕微鏡観察を行い、準安定相-最安定相ラテラル接合界面の仕事関数差を明らかにする。 以上2点について、今後の2年間で推進していく予定である。
|