研究課題/領域番号 |
22K14583
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分28050:ナノマイクロシステム関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上野 秀貴 神戸大学, 未来医工学研究開発センター, 特命助教 (00881418)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ナノマイクロシステム / バイオマイクロシステム / Lab on a Chip / BioMEMS / Tissue Engineering |
研究開始時の研究の概要 |
実際の組織環境に近い細胞組織の作製は、再生医療や創薬等の応用技術の発展にも不可欠である。しかし、一般にシャーレ等で作製した細胞組織の回収ではタンパク質分解酵素処理等で細胞に負荷を掛ける。自己組織化や支持材等を用いる場合も形状制御が難しく、微細な中空の3次元組織の作製は極めて困難である。本研究では、光に反応し窒素ガスを発生する光応答性ガス発生ポリマー(LGP: Light-Responsive Gas-Generating Polymer) を用い、限りなく生体環境に近く、細胞に低負荷な3次元の細胞組織形状制御技術の構築を目的とし、既存法では困難な中空の細胞組織の作製を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、UVA領域の光を受光した際に、その体積の10倍以上の窒素ガスを迅速に生成できる光応答性ガス発生ポリマー(LGP)を用いた、細胞や細胞組織に低負荷な細胞組織の構築と回収手法を提案する。プロジェクト終了時までに、血管等にみられる中空構造を含む、複雑な形状を有する細胞組織を構築することを目標としている。また、本技術の将来的な応用先として再生医療、薬剤スクリーニングを想定しているので、人為的に設計された形状を有しつつ、人工物を一切含まない細胞組織の構築を目指す。 実現方法として、半導体作製技術などの微細加工技術を用いて、LGPを加工し、細胞組織の形状を操作できるマイクロ鋳型構造を作製する。作製したLGPのマイクロ鋳型構造上に細胞を播種し、細胞がLGPマイクロ鋳型構造と同様の形状となった後、UVA光を照射し、それにより発生した窒素ガスの圧力によりLGPマイクロ鋳型構造上から細胞組織をリリースし回収する手法を構築する。 研究項目は、①マイクロスケールの形状を有するLGPマイクロ鋳型構造の加工方法の構築、②LGPマイクロ鋳型構造上に細胞を接着培養するための適切なコーティングおよび培養条件の特定、③LGPマイクロ鋳型構造上からの細胞組織の低負荷な回収と、回収した細胞組織の形状保持時間および代謝機能などの評価に分類される。本年度は特に、②および③の検討として、細胞を長期間培養でき、かつ低負荷で回収可能な微細構造を作製し、それを用いた細胞組織の回収を行った。さらに、回収した細胞組織の形状と細胞の生存率などを測定し、提案手法の有用性を評価した。回収された細胞組織はポリスチレンなど本来生体内に存在しない人工物を有しておらず、かつその形状を数時間維持した。また、細胞組織を構築する90%以上の細胞が回収後も生存していた。よって、提案手法により意図した形状を有する細胞組織を低負荷で回収できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究における研究項目は3つあり、それぞれ①マイクロスケールの形状を有するLGP構造の加工方法の構築、②LGP構造上に細胞を接着培養するための適切なコーティングおよび培養条件の特定、③LGP構造上からの細胞組織の低負荷な回収と、回収した細胞組織の形状保持時間および代謝機能などの評価である。本年度は特に、②および③の検討として、マイクロスケールの足場構造を作製し、それを用いた人工物質を含まない細胞組織の培養と、意図した形状を有する細胞組織の回収方法の評価を行った。 従来の細胞組織の形状の制御では、ポリスチレンなどの人工物質である足場やハンギングドロップ法など液滴の界面を利用する方法がある。前者の方法では、細胞組織の形状を足場に類似した形状に加工できるが、作製される細胞組織内に人工の物質が残存する課題がある。一方、液滴の界面を利用した方法では、作製されるスフェロイドなどの細胞組織に人工物質は含まれないが、細胞組織の形状を操作し、意図した形状に加工することは極めて困難である。そこで、半導体微細加工を用いて適度に細胞が接着可能な構造を作製した。作製した構造を、細胞組織の形状をコントロールするマイクロ鋳型として用いた。鋳型内で細胞を培養し、細胞同士が結合し鋳型と同様の形状を有した後に回収することで、人工物質を一切含まず、意図した形状を有した細胞組織を作製できることを示した。また、作製された細胞組織を構成する細胞の90%以上が生存していたので、本手法は細胞組織に対して低負荷であった。当初の計画では、意図した形状を有したまま細胞組織を回収するには、細胞間をより強固に接着させるためにECMなどの生体由来の材料を用いることを検討する必要があると考えていたので、現時点においては、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における研究項目のうち、研究項目①については、半導体作製技術を含む微細加工法のLGPへの応用について検証を行っており、加工可能な形状とその作製精度を明らかにしている。今後は、中空の細胞組織を構築するため、中空の微細な構造の内面にLGPを均等に付着させる方法を検討する。具体的には、成膜条件とそれにより作製されるLGPの膜厚、表面粗さそして、平坦性を評価する。 研究項目②については、細胞種ごとに適切なコーティング条件は異なるので、引き続き検討を継続する。これまでの研究により、ヒト子宮頸がん細胞株であるHeLa細胞に対してはフィブロネクチン、ヒト脳腫瘍細胞株であるU-87細胞に対してはⅠ型コラーゲンを用いることで、LGP表面に対して細胞を接着できることを示している。今後も複数の細胞種に対して適切なコーティング条件を明らかにしていく。その中でも特に、血管にみられる中空の構造の作製を目指し、HUVECなど血管内皮細胞の培養に適したLGP表面のコーティング条件を明らかにする。 研究項目③については、これまでの研究で個々の細胞を高い生存率でLGP表面から回収できることを示している。また、今年度の研究により微細な構造上から低負荷で細胞組織を回収する条件を明らかにできている。今後は、LGP構造上から窒素ガスを用いて低負荷かつ迅速に、その形状を損なうことなく細胞組織を回収する手法とその最適な条件を検討する。具体的には、照射するUVA光の波長や強度、必要な場合は、周期的に光を照射することも含め、最適な光照射条件を明らかにする。また、細胞組織の回収時にはマイクロピペットなどの併用が予想されるので、適切な機器の選定を進める。さらに、細胞組織を効率的に作製するために、歩留まりの改善や細胞組織の大量生産に適した方法を検討する。
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