研究課題/領域番号 |
22K14585
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
輕部 修太郎 京都大学, 化学研究所, 特定准教授 (30802657)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | スピントロニクス / スピン流 / 磁化反転 / 反強磁性 / 交互磁性 / RuO2 |
研究開始時の研究の概要 |
磁気ランダムアクセスメモリの主たる動作原理の一つであるスピン流誘起磁化反転現象は、原理的に外部アシスト磁場が必要である難点を抱えている。 この課題を解決するため、従来用いられてきた「スピン軌道相互作用」(空間的反転対称性の破れ)に加え、従来考慮されてこなかった磁気モーメントに働く「交換相互作用」(時間反転対称性の破れ)を新たに導入することにより新奇スピン流制御技術を確立する。強磁性・反強磁性交換相互作用、RKKY相互作用の3つの交換相互作用を柱に、外部磁場フリー磁化反転実証に加え、高効率スピン注入・輸送及びスピン流変調を実現し、電子産業応用上重要な磁気デバイス動作原理の更なる学理構築を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では物質中の「交換相互作用」に着目する事で、既存の概念を超越する新たなスピン流生成および制御技術を確立しようとするものである。今年度、研究代表者は特に交互磁性を発現し得る反強磁性RuO2に着目し研究を行ってきた。交互磁性は、強磁性、反強磁性に次ぐ第3の強的秩序の磁性であり、反強磁性の仲間でありながら、時間反転対称性を破り、電子バンド構造上でスピン分裂を誘起する。これは、反強磁性結合している磁気モーメントを囲む結晶場が異方的であると、アップ、ダウンの両スピンに異なるバンドが用意される事に起源を持つ。 研究代表者は本課題の申請時、RuO2においてネールベクトル方向に依存したスピン流が生成可能である実験的な証拠を得ており、これを活用する事で外部磁場を必要とせず、効率的に垂直磁化を反転できるであろうという着想を持っていた。そのため、今年度はRuO2で生成されたスピン流を用いる事で隣接磁性層の磁化を反転する実験を中心的に取り組んでいた。 具体的にはRuO2/Ru/Co/Ptの積層構造によってCoを垂直磁化させ、室温においてRuO2のスピン流誘起磁化反転実験を行った。RuO2中で生成されるスピン流のスピン偏極成分は、印加電流方向に依存しており、垂直磁化を反転させ得る面直成分を含んだスピン流を含んでいる場合のみ、外部磁場フリー磁化反転が可能である事を明らかにした。 以上のように、本課題で着目している「交換相互作用」を活用する事で、スピントロニクスにおける代表的な応用である磁化反転を効率的に行う事に成功した。次年度はRuO2の反強磁性ドメインに着目する事でさらなるスピン流生成効率の向上を目指して研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
概要で述べた新奇な現象である交互磁性を活用し、RuO2のネールベクトル依存したスピン流生成にこれまで成功しており、印加する電流方向に応じて異方的なスピン偏極を示すスピン流を観測している。特に面直スピン偏極は垂直磁化の反転に有用であり、外部磁場フリー磁化反転の実験を中心に今年度は実験を行った。 実験では、高周波マグネトロンスパッタリング法によりサファイア基板上に注目しているRuO2(101)面を10 nmエピタキシャル成長し、更にその上にRu(0.8nm)/Co(0.8nm)/Pt(2.0nm)の成膜を行った。本薄膜をホールバー素子に加工し、室温において100 ms程度のパルス幅のDC電流印加してCoの異常ホール抵抗を測定する実験を行った。上述したようにRuO2面内において印加する電流方向を変える事でスピン流における面直スピン偏極ありなしという状況を作る事ができ、面直成分を有している場合のみ、外部磁場を必要とせず、垂直磁化の反転に成功した。本結果がRuO2のスピン流由来である事を裏付けるために、ホールループシフトによる面直有効磁場の観測や、交換バイアス由来でない事も確認した。 本成果はPhysical Review Lettersに出版し、世界に発信も行っている。 このように「交換相互作用」起因の現象を利用する事で磁化の効率的制御技術を確立しつつあり、当初の計画以上に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で交互磁性を活用したスピン流生成によって効率的に磁化を制御できる事が明らかになったので、今後もRuO2をベースとした研究を展開していく予定である。しかしRuO2の電流からのスピン流生成効率は1 %未満と非常に小さく、交互磁性の理論[Phys. Rev. Lett. 126, 127701 (2021)]で予測されている30 %を大きく下回っている状況である。これはRuO2の磁気ドメインが関係していると考えられる。RuO2のネールベクトルには[001]と[00-1]と2種類の安定な結晶方向があり、これにより反強磁性ドメインが形成されている事が予想される。このため、次年度ではRuO2のドメインを観察・低減し、スピン流生成効率を向上させる事を目指す。ドメインの観察はSPring-8におけるX線磁気線二色性測定を主に行う。またドメイン低減に関しては磁場中熱処理やPtなどの隣接層からのスピン注入によってネールベクトルの一軸化を目指す実験を実施していく予定である。
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