研究課題/領域番号 |
22K14627
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分31010:原子力工学関連
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関 亜美 東北大学, 工学研究科, 助教 (80912328)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 放射性廃棄物処分 / セメント系材料 / カルシウムシリケート水和物 / セレン / 収着 / 相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
放射性廃棄物処分において、処分施設の建設に用いられる多量のセメント系材料と地下水とが長期に亘り接触することで、処分場周辺にはカルシウムシリケート水和物(CSH)が二次生成する。CSHはこれまで、セシウムやバリウムなどの陽イオン核種に対する収着能が報告されているが、陰イオン核種に対する収着特性については報告例が少ない。本研究では、セレン(Se-79、半減期30万年)に着目し、地下の冠水環境において生成するCSHあるいはアルミニウム(Al、周辺岩盤やセメント由来を想定)含有CSHのセレン収着能を明らかにする。
|
研究実績の概要 |
放射性廃棄物処分場周辺では、処分施設の建設に用いられる多量のセメント系材料と地下水とが接触することで、セメントの主成分でもあるカルシウムシリケート水和物(CSH)が二次鉱物として生成する。本研究ではこのCSHの核種収着能に着目し、これまでCSHとの相互作用に関する報告例が少ない陰イオン核種の中でも、地層処分システムにおける被ばく線量支配核種の一つであるセレン(Se-79、半減期30万年)についてその収着挙動を検討し、CSHのバリア機能を示すことを目的としている。 本年度は【検討課題2:CSH種のSe収着能および収着機構の解明】について、CSHへのセレン酸イオン、亜セレン酸イオン、セレン化水素イオンの収着挙動を検討した。セレン濃度は、生成し得るSe-Ca化合物の溶解度を考慮し、セレン酸イオンおよびセレン化水素イオンは1×10^-3 M、亜セレン酸イオンは1×10^-7 Mに設定し収着実験を行った。また、亜セレン酸イオンおよびセレン化水素イオンの収着実験では、還元雰囲気を保持するために所定量のヒドラジンを添加した。 見かけの収着分配係数はそれぞれ、セレン酸イオンでは1~2 mL/g、亜セレン酸イオンでは5~14 mL/g、セレン化水素イオンでは4~6 mL/gとなり、セレンの形態によりCSHとの相互作用の程度には差が見られた。これは、オキソ酸として存在するセレン酸イオンと亜セレン酸については電荷の偏りが異なるためであり、セレン化水素イオンについては電荷密度が異なることに起因すると考えられる。収着メカニズムについては、セレン酸イオンおよび亜セレン酸イオンでは主にCSHの水和水とともにセレンが取り込まれるのに加えてCSH構造内のCaイオンとの相互作用が考えられる。一方でセレン化水素イオンについては、CSHの水和水とともに取り込まれるメカニズムが主要となっていると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【検討課題1:地下の冠水環境において生成するCSH種の生成機構の整理】については、淡水系におけるCSHの養生実験より、CSHは調製後速やかに生成されるが、特に初期の14日間程度はその構造形成が過渡的であることを明らかにしている。また、前述のバッチ式によるCSHの養生実験に加えて、地下環境を模擬し花崗岩を組み込んだマイクロフローセルによる流動実験により、浸透率、カルシウム濃度、および花崗岩の表面観察からもCSHの生成機構を検討した。流動実験より、CSHの生成は花崗岩のケイ酸塩鉱物からのケイ酸の溶出が律速となり、カルシウムとケイ酸が接触することで速やかに生成することが示されている。 【検討課題2:CSH種のSe収着能および収着機構の解明】については、淡水系地下水を想定した条件におけるCSHへのセレン酸イオン、亜セレン酸イオン、およびセレン化水素イオンの収着挙動を検討した。セレン濃度は、生成し得るSe-Ca化合物の溶解度を考慮し、セレン酸イオンおよびセレン化水素イオンは1×10^-3 M、亜セレン酸イオンは1×10^-7 Mに設定し収着実験を行った。また、亜セレン酸イオンおよびセレン化水素イオンの収着実験は、還元雰囲気を保つために所定量のヒドラジンを添加した。収着実験より、見かけの収着分配係数はそれぞれ、セレン酸イオンでは1~2 mL/g、亜セレン酸イオンでは5~14 mL/g、セレン化水素イオンでは4~6 mL/gとなった。従来の深成岩類を想定した場合の高レベル放射性廃棄物処分場周辺における母岩へのSeの収着分配係数1 mL/gと比較すると、特に地下の還元雰囲気で主要となる亜セレン酸イオンおよびセレン化水素イオンについては有意に相互作用する結果が得られている。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、塩水系地下水を想定し、600 mMの塩化ナトリウム濃度において同様に収着実験を予定している。また、処分場の建設材料の一つとして適用が検討されているフライアッシュや高炉スラグを混合した混合セメントは、一般的に多用されている普通ポルトランドセメントに比べてアルミニウムの含有量が高い。アルミニウムは、岩盤の珪酸塩鉱物や地下水中にも含まれ、アルミニウムが共存する系においてはCSHにアルミニウムが含有することが考えられ、CSHの生成挙動やセレンの収着挙動に影響することが考えられる。そのため、今後はアルミニウム含有CSHの生成機構やセレンとの相互作用について検討する予定である。 これらの検討により得られた成果より、CSHのCa/Siモル比、塩化ナトリウムやアルミニウム共存の有無、セレンの形態などによってその相互作用の程度を整理し、処分場周辺に二次生成するCSHのバリア機能を提示する。
|