研究課題
若手研究
Sr-90の海水魚モニタリングにおいて、層状に組織が蓄積する耳石の分析からその個体の取り込んだSr-90の経時変化を追跡できる可能性がある。しかし、従来のSr-90の分析技術は耳石中の微量なSr-90を定量することが困難であった。そこで本研究課題では誘導結合プラズマ質量分析法を高感度化することで、耳石に含まれるSr-90の測定を試みる。耳石の年齢エリアごとにSr-90を測定することで、魚の年齢ごとのSr-90の取り込み量が推定できる新たな海水魚モニタリング手法を提案する。
今年度は、LA-ICP-MSにより、耳石内の安定Sr同位体比の変動を確認した。耳石中心部から外縁部にかけてアブレーションした結果、安定Srの同位体比の変動がないことが明らかになった。また、Sr-90の測定候補とする海水魚試料について、耳石中のSr-90濃度を予測するために、同一個体の骨に含まれるSr-90を測定した。近年採取された個体は1F事故の影響を受けておらず、0.1から0.2 Bq/kg-ashの濃度であり、ICP-MSによるSr-90の検出が困難であると予想された。一方で2016年に採取された海水魚のなかには1000 Bq/kgを超える個体もあり、このような個体であれば十分に耳石に含まれるSr-90をICP-MSにより検出できると考えられる。該当する個体については耳石を採取し、測定可能な状態とした。昨年度セッティングした脱溶媒装置とICP-MSのシステムにおいてSr-90を測定する場合、内標準として利用予定のInの質量数において、汚染が混入する試料が見受けられた。汚染の発生する原因としては化学分離に用いるSr resinカラムに含まれる有機物と考えられた。他にも内標準として利用可能と考えられるRhの質量数においても汚染が確認されたため、内標準を変更するよりも汚染の除去が効果的であると考えられた。したがって、実際に耳石に含まれるSr-90を測定する場合には、このようなカラム由来の有機物の除去が必要である。
2: おおむね順調に進展している
昨年度、装置の故障により実施できずに遅れが生じていた耳石内のSrのLA-ICP-MSによるマッピング測定を実施することができた。また、耳石中のSr-90をICP-MSにより測定することが可能な試料を入手することができたこと等から現在までの進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断する。
今年度の試験結果を受け、内標準の質量数の汚染源と考えられるカラム中の有機物を酸分解などで除去可能か検討する。検討結果を受け、内標準を決定した後に耳石に含まれるSr-90をICP-MSにより分析する。濃度の低い個体については、耳石全体に含まれるSr-90のみ測定する。耳石中のSr-90濃度が高いと予想される個体については、耳石を分割して測定し、魚の生涯におけるSr-90の摂取記録の変化が読み取ることが可能か検討する。可能であれば、Sr-90以外にも酸素、炭素同位体比なども合わせて評価し、Sr-90の取り込み履歴と生息域の変化が比較できるか検討する。
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KEK Proceedings 2023
巻: 2 ページ: 155-160
KEK Proceedings 2022 (第23回環境放射能研究会プロシーディングス)
巻: 2 ページ: 102-107