研究課題
若手研究
Sr-90の海水魚モニタリングにおいて、層状に組織が蓄積する耳石の分析からその個体の取り込んだSr-90の経時変化を追跡できる可能性がある。しかし、従来のSr-90の分析技術は耳石中の微量なSr-90を定量することが困難であった。そこで本研究課題では誘導結合プラズマ質量分析法を高感度化することで、耳石に含まれるSr-90の測定を試みる。耳石の年齢エリアごとにSr-90を測定することで、魚の年齢ごとのSr-90の取り込み量が推定できる新たな海水魚モニタリング手法を提案する。
今年度はICP-MSのリアクションガスの変更による干渉除去について検討した。従来のICP-MS法では酸素ガス単独の反応によりZrを除去したが、酸素に加えZrやGe、Seにも反応性のあるアンモニアの混合ガスを添加した。その結果、Zr、Geはアンモニアとのクラスターイオンを生成するため、Sr-90測定に干渉しないことがわかった。Seはアンモニアとの反応で中性イオンへと変化することでSr-90測定に干渉するSeOの生成が抑制されたと考えられる。また、Ar由来の干渉もアンモニアガスの添加によって可能となり、Sr-90測定時のBEC、LODを低下させることができた。このようにアンモニアガスの添加により、従来の酸素ガス単独反応に比べ測定干渉を抑えながら微量のSr-90を測定可能な条件を整えた。また、ICP-MS自体の測定感度を向上するために、メンブレンフィルターを装着した脱溶媒装置を導入した。この脱溶媒装置を用いることで、ICP-MSの標準ネブライザーよりもSrの感度が8倍程度感度を上昇することができた。上記のリアクションガス反応条件を脱溶媒装置と組み合わせることで、高感度なSr-90用のICP-MS分析法が開発できる見通しが立った。現段階でもSr-90と安定Srの同位体比が10-10から10-11オーダーに適用可能な手法であり、1F事故由来のSr-90を検出可能であると考えられる。また、海水魚の耳石の採取を進めた。定置網漁で採取されたヒラメ、ホウボウなどの海水魚から耳石を採取した。片側の耳石は年齢推定に用い、個体ごとの年齢を明らかにした。もう片方の耳石はSr-90の分布測定用に用いる試料とした。
3: やや遅れている
分析手法の開発や試料採取は予定どおり進んでいる。次年度以降も手法をより高度化することで、耳石中のSr-90分析も可能になると考えられる。ただし、今年度実施予定であった耳石内のSrのLA-ICP-MSによるマッピング測定が、装置の修理が必要であるため次年度に実施することとなり、研究計画に遅れが生じた。
脱溶媒装置を用いた検出感度の向上を行う。また、耳石を複数試料に分割しながら溶解する前処理手法を検討し、耳石の内部から外部にかけてのSr-90の取り込み量の変化の観測に向けた技術開発を行う。また、LA-ICP-MSによるマッピング測定により耳石内での安定Srの分布も観測する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
KEK Proceedings 2022 (第23回環境放射能研究会プロシーディングス)
巻: 2 ページ: 102-107