研究実績の概要 |
電極と電解液で構成される電気化学界面で起こる種々の電気化学反応過程の物理理解のためには, 電極電位を制御した上で微視的理論に基づく網羅的な数値計算が必要となる. 計算精度を維持しつつ少ない計算負荷で電気化学反応を調べるため, 電極と注目する反応体を量子力学に基づく電子論で扱い, 環境として振る舞う電解液を古典溶液論で扱う量子・古典融合理論が近年開発され, 種々の電気化学反応の理解に応用されている. この量子・古典融合理論では, 古典溶液論にreference interaction site model (RISM)を採用している. しかし, RISMには溶液の誘電率を過小評価する問題が知られている. より信頼性の高い数値計算を行うためには, 電子論のみならず古典溶液論の高度化も必要となる. 昨年度は研究開発初年度として, 誘電率補正したRISM (dielectrically consistent RISM; DRISM) を量子・古典融合理論に応用することで, 電気化学界面における種々の物理量に対して誘電率補正が与える影響を調べた. まずNaCl水溶液バルクに対して誘電率補正効果を調べたところ, 実験で得られるイオン平均活量の溶質濃度依存性をよく再現することを確認した. 次に, Pt(111)/1M-HCl水溶液界面を用意し, 計算を実施したところ, 標準水素電極電位から測ったゼロ電荷電位やグランドポテンシャルの曲率から決まる電気二重層の静電容量の定量性が改善する傾向が得られた. 本結果から, 古典溶液論の改善は, 電気化学界面における諸物理量を求める上で重要となると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開発初年度として, 量子・古典溶液理論の枠組みで金属電極/水溶液界面における数値計算手法の高度化を行なった. 本研究成果から, 電気化学界面の諸物理量を予測するためには, 電極の電子状態のみならず電解液側の計算手法の高度化も必要であると考えられる. このような知見は電気化学界面の反応や物性値に対する理論的予測能力の向上のために有益であると考えられる. したがって, 概ね順調に進捗している.
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