研究課題/領域番号 |
22K14645
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 雅明 東京工業大学, 理学院, 助教 (90909384)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
|
キーワード | キラル分子 / 配向制御 / クーロン爆発 / 画像観測 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では偏向型の状態選別器を用いた分子配向制御技術とクーロン爆発イメージングを組み合わせた、まったく新しいキラル識別方法の開発を目指す。これは円偏光ではなく直線偏光の光のみを利用するという点で他の方法とは一線を画するものである。検出にもちいる極短パルス光源は非常に強い光強度をもち、非共鳴イオン化により多くのキラル分子への適用を可能にする。さらに、この直線偏光によるキラル識別という点は自然界において光化学がホモキラリティの発現に対して果たした役割を考える上でも重要と考えられる。つまり、本研究で開発するシステムは単純なキラル識別技術として以上の価値を持つものである。
|
研究実績の概要 |
本研究は、偏向型量子状態選別器を利用したキラル分子の配向制御とクーロン爆発イメージング法を組み合わせたまったく新しいキラル識別方法の開発を目的とする。前年度には真空チャンバーやレーザーなど大型の実験装置の再配置を行い、その再立ち上げを完了した。よって今年度はこれらの装置を使った実験を開始した。本実験における重要な要素は二つあり、一つは分子の回転状態選別器を利用した配向制御、もう一つはクーロン爆発で発生する解離生成物の二次元観測である。このうちの前者について、まずは先行研究例の多いヨードメタンを用いて状態選別と配向分布の確認を行った。実験では状態選別器によって偏向された分子線の観測に成功し、その軌道については事前におこなったシミュレーションの結果とよい一致を示した。また、解離生成物の飛行時間スペクトルに表れた特徴的な異方性から、状態選別された分子が空間的に配向していることを確認した。以上の結果をもって状態選別器が期待した性能を発揮していることが確かめられた。現在は飛行時間スペクトルという一次元の情報から数学的な処理を経ていくつかの仮定のもとに3次元分子配向を再構築している。しかし、分子配向の直接観測のためには解離生成物の画像観測必要となる。現在はこの画像観測のための装置の組み立てに入っており、次年度初頭には完成する予定である。この装置の完成をもってキラル分子の実験に移行する。ここまでの結果は一件の関連する国内学会にて発表済みであり、二件の国際学会にて2024年度に発表予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に実行した装置の再配置は当初の予定になかった作業ではあったが、その後の再立ち上げなどは特に問題なく進行し、本年度は予備的といえども価値のある実験結果を得られた。本計画の技術的な課題の一つであった偏向型量子状態選別器を利用した分子の配向制御について、ヨードメタン分子線の偏向成分を実験的に観測した。分子線の軌道が曲がったということは分子の状態選別されたことを示しており、シミュレーションの結果と照らし合わせることでほぼ単一の回転状態選別が達成されたことが示唆されている。この点については計算だけでなく、さらに実験的な追試が必要となるが、偏向型量子状態選別器による単一状態選別は報告例がなく、非常に重要な結果といえる。また、飛行時間スペクトル測定によって分子が配向していることも確かめられた。これは解離時の親分子の空間配向によって解離生成物の観測される時間に違いが出ることを利用しており、原理的にはスペクトルの解析から分子配向分布を求めることが可能である。しかし、実際にはその解析にはいくつかの仮定を置く必要があり、また数学的な処理を必要とする間接的な方法となるためにある程度の誤差が避けられない。よって、より直接的な配向分布の観測のために画像観測装置の組み立てを開始している。電子部品の調達には納期の遅れなどがあったものの、前年度から十分早く発注を開始したこともあり2023年度中に主要部品は全て揃えることができた。動作確認のための道具も揃っており順調に進んでいるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
まずは画像観測装置の完成を目指す。これはすでに進行中であり、令和6年度の早い段階で達成する見込みである。そのあとにヨードメタンを用いてその空間配向分布の観測を行う。これはすでに配向していることがわかっており、飛行時間スペクトルからその配向分布の見積もある程度可能であることから装置全体の調整や補正を行うことが目標となる。これらを踏まえたうえでプロピレンオキシドなどのキラル分子を使った実験を開始する予定である。画像データの解析についてはまだ確立した手法はないが、過去の研究との類似性があるので、これを足掛かりに進める予定である。幸い、プロピレンオキシドは二つの光学異性体(R体, S体)が両方容易に入手できるためにキラル識別の実験データと理論の比較に有効なサンプルといえる。 並行して、ここまでの実験で得られた結果を二件の国際学会にて発表する予定である。ただしヨードメタン分子の空間配向の直接観測は最終的な目標ではないものの、成功すれば非常に重要な結果といえる。結果次第ではこれについても論文発表を準備する。
|