研究課題/領域番号 |
22K14648
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岡本 翔 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 助手 (70936616)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 三重項-三重項消滅 / 励起子拡散 / アップコンバージョン / 三重項 / スピン変換 |
研究開始時の研究の概要 |
三重項-三重項消滅(Triplet-Triplet Annihilation, TTA)は、エネルギーの低い2つの三重項励起子からエネルギーの高い1つの一重項励起子を生成するエネルギー変換過程である。TTAでは、2つの三重項励起子が接近しペアを組んだ多重励起子が形成される。多重励起子の電子状態や運動性は一重項励起子生成の速度や効率に深く関わっているとされるが、実験的知見は殆ど無い。本研究では、電子スピン共鳴法による多重励起子の直接観測を行い、多重励起子に働く磁気的相互作用について定量評価する。理論的知見を組み合わせて多重励起子の電子状態や運動性を解析し、TTAにおけるスピン変換機構を解明する。
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研究実績の概要 |
三重項-三重項消滅過程(TTA)を経由した光アップコンバージョン(UC)材料の一つである、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)とジフェニルアントラセン(DPA)を混合した溶液サンプルに対して、時間分解電子スピン共鳴(ESR)測定を実施した。室温条件では、光励起されたPtOEPからのエネルギー移動を経由して、DPA分子上に生成した励起子のESR信号を観測することに成功した。スペクトル解析の結果、三重項励起子の磁気異方性パラメータであるゼロ磁場分裂定数、各スピン副準位のスピン分布割合を表す電子スピン分極率を決定した。観測されたスペクトルの大部分は孤立した三重項励起子由来であったが、わずかに二つの三重項励起子が対となった多重励起子由来の成分も含まれていることが分かった。 多重励起子由来のESR信号をS/N良く検出するため、低温におけるESR測定を試みたが、ESR信号を観測できなかった。低温では溶媒の凍結により分子拡散が抑制され、DPA分子上に生成される励起子濃度の低下、およびTTA反応効率の著しい低下が起きたと考えられる。 一方で、室温条件ではESR信号の溶媒粘度依存性の取得にも成功した。溶媒粘度を上げると、励起子拡散速度が低下し、ESR信号の立ち上がりおよび減衰が遅くなることが分かった。このことは、PtOEPとDPA間もしくはDPAとDPA間における二分子反応速度が電子スピン分極率の時間変化に影響を与えたことを示しており、TTA反応効率やUC発光効率に深く関わっていると考えられる。今後はこれらの実験結果を活用してTTA反応に関わる励起子の運動性をモデル計算により評価、解析し、TTAで生成する多重励起子のスピン変換機構について研究する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における二大研究項目の一つである、TTAで生成した多重励起子を時間分解ESR法により観測することに成功し、もう一つの研究項目である多重励起子の運動性解析において必要なTTA-UC系で生成する励起子の電子立体構造や運動性に関する実験データが得られたため。
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今後の研究の推進方策 |
TTA反応中のスピンダイナミクスについて明らかにしていく。具体的には、これまでに得られたESR測定結果を活用し、TTAで生成する三重項励起子および多重励起子の電子スピン分極が時間的にどのように変化していくかをモデル化し、シミュレーションにより観測されたESRスペクトルを再現することで提案モデルの妥当性を検証する。現在、本モデルの構築およびシミュレーション検討に必要な計算環境の整備を始めている。また、モデル検討におけるサポートデータとして、ESR測定で使用したTTA-UCサンプルの各素過程の量子効率を評価する。本評価のために、強高度LED光源を用いた専用の発光強度測定システムを構築する予定である。これらの検討結果をまとめ、UC発光の効率とTTAにおける多重励起子スピン変換機構との関係性について定量的に議論していく。
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