研究課題/領域番号 |
22K14661
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
平井 悠一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, ICYSリサーチフェロー (00866048)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | ナノインデンテーション / ナノメカニクス / 結晶 / メカノクロミック / メカノルミネッセンス / トリボルミネッセンス / 希土類錯体 / メカノクロミズム / 発光 / 機械刺激 |
研究開始時の研究の概要 |
機械刺激による分子の発光(トリボ発光)や発光色・強度変化(メカノクロミック発光)は広く知られる現象であるが、これらを示す分子が固体として『どのような機械特性を有し、また光物性の応答性とどのように関連付けられるか』が未解明である。 本研究では、これらの分子の変形・破壊挙動をナノインデンテーション法により解明する。これにより、押し込み深さに対するナノメートルオーダーの分解能で弾性・塑性変形の過程を定量的に追跡することが可能となる。荷重-変位曲線から得られる硬さや弾性率などの力学物性と結晶構造、発光スペクトル及び寿命を紐付けることで、刺激-変形-発光応答に関わる学理を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、粉砕・磨砕などの機械刺激に応答して発光特性が発現・変化する(MLおよびMRL)分子結晶の破壊・変形挙動をナノインデンテーション法により解明することを目的としている。特に希土類錯体は光励起により高効率発光を示す系が数多く報告されており、それらの中で粉砕により光励起と同様のスペクトル形状で強発光を示す系が数多く見出されている。光励起による発光効率ではなく純粋な機械刺激応答特性とML強度の相関を確かめるために「光励起では光らない」系の構築を検討した。立体障害が大きく、結合の回転自由度が低く、さらに消光過程を誘起する配位子を用いることで、機械的な反発が大きく発光効率が極めて低い七配位二核錯体を合成した。この分子結晶は粉砕により強い赤色発光を示し、ナノインデンテーション法で得られた荷重変位曲線から、脆い材料に典型的なpop-in挙動を示さず、加えた応力を結晶内に変形として蓄積する特性を有することが明らかとなった。さらに、Tb(III)とEu(III)を混合することでMRLを示すことも明らかとなった。希土類錯体におけるMRLは本研究における例が初めてであるため、より変形と発光の相関への理解を深めることを目的として、MRLを示す有機分子結晶の発光応答特性とそれを司る機械特性の相関を検討した。紫外光照射下での粉砕により紫から青緑色への発光色変化を示すピレン誘導体の中でも、除荷後に溶媒蒸気暴露や加熱を介さずに最初の発光色に戻る速度(自己修復速度)が著しく異なる系の単結晶を用いて、そのヤング率・剛性率、分子間相互作用等の観点から変形と発光の相関を総合的に分析した。その結果、粉砕による発光色の変化は分子のパッキング様式に支配され、自己修復速度は結晶内における分子間相互作用の分布や空隙率に支配されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、希土類イオンの直接励起による発光効率が高く、配位子励起による間接発光効率が低い系を用いることで、従来強発光に必要と考えられてきた有機物によるアンテナ効果を必要としない機械刺激応答性発光体の創成に成功し、その機械特性については通常の脆い分子結晶とは異なる特異な荷重-変位曲線が観測されることをナノインデンテーション法により見出した。当該分子は希土類錯体として初めてMRLを示すことも明らかとなった。 昨年度は電子構造が酷似したアルキル(Me3, Me2Et, Et3)シリル部位を有するピレン誘導体において、化学構造や分子の立体構造、粉砕前後の発光スペクトルが非常に似ているにも関わらず、固体状態におけるMRLの逆戻り反応速度に著しい差があることを見出し、これらの機械特性の抽出を検討した。その結果、機微な置換基の違いによりMe3において空隙率が1割ほど高く、ヤング率・剛性率の複合パラメータから、他の2つと比べてやわらかく、かつ変形が戻りにくいことが定量的に示された。これらは粉砕後のMe3においてのみ発光スペクトルの逆戻り速度が著しく遅い(変形が戻らない)結果と一致している。またいずれの化合物も芳香環の辺と面を接するherringbone型のパッキング構造に分類されることは、粉砕により発光スペクトルが長波長シフトする挙動を説明する。これらのことから、粉砕によるMLだけではなく、磨砕によるMRL特性も機械パラメータと相関づけられることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
これまで機械刺激応答発光を示す分子結晶の特性値として考慮してきたYoung’s modulus およびhardnessに加えて、これらの複合パラメータであるelasticity index(変形しやすさの指標)およびgeometric mean(変形の戻りやすさの指標)についてもML・MRL双方に関与する物性値として検討の幅を広げる。特に、ML強度に関係すると考えられるpop-in挙動、およびMRL(変形の戻りやすさ)に寄与すると考えられる空隙率について、二核以外の構造を有する希土類錯体(単核、配位高分子)や異なるMRL応答(短波長シフト、on-offスイッチング)を示すピレン誘導体の分子結晶を用いて、これらの固体力学特性・光物性・結晶構造の対応関係を明らかにする。
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