研究課題/領域番号 |
22K14666
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
安達 洋平 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (50805215)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | BAE / メカノクロミズム / ホウ素 / クロミック材料 / ヘテロ元素 / クロミズム / 共役系 |
研究開始時の研究の概要 |
サーモクロミズムやメカノクロミズムを示す刺激応答性有機色素は、センサーやスイッチなどの材料として幅広い応用が可能であることから、近年盛んに研究が行われている。中でもBAEと呼ばれる骨格は複数の配座異性体を持ち、その相互変換を利用したクロミック材料が古くから研究されている。本研究ではBAE骨格に三配位ホウ素などのヘテロ元素を導入することで、異性化体間のエネルギー差を体系的に精密にコントロールし、様々な温度領域や外部刺激に対してクロミック特性を示す、革新的なBAE誘導体の創出を目指す。またヘテロ元素の反応性を利用したケモクロミズム特性の発現とその応用を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、Bistricyclic Aromatic Ene (BAE)と呼ばれる骨格にヘテロ原子を導入することで、従来のBAE材料には見られない、元素の特異な反応性に由来するクロミズム特性を有する新材料を開発することが目的である。BAEは2つの三環性骨格を二重結合で連結した構造であり、2つの環骨格間の立体障害のため、二重結合が大きくねじれたtwisted体や、三環性骨格が折れ曲がったfolded体などの様々配座異性体が存在する。これらの配座異性体は二重結合のねじれ角に依存して異なる吸収スペクトルを示すため、熱や摩砕などの外部刺激によって配座が異性化すると色調が変化する。そのため、BAEはサーモクロミズム材料やメカノクロミズム材料などへの応用が検討されている。一方でヘテロ元素は空軌道や非共有電子対を持つため、塩基や酸などに対して反応性を示す。また高周期元素は結合長が長いため、骨格の剛直性などに大きな影響を与える。申請者は以前、チオフェン環をベースとする三環性骨格にホウ素原子を導入したBAEを合成し、その分子がホウ素のp軌道に由来して低いLUMO準位を有することや、n型半導体特性を示すなど、元素の特徴に由来する物性を示すことを明らかにした。本研究ではその骨格をベースに、2つの三環性骨格の片方を様々なユニットに置換することで、配座異性体の熱力学的安定性をコントロールし、ヘテロ原子に由来するクロミック特性を付与することを試みた。2022年度には、フルオレンやチオキサンテンなどの三環性骨格を導入した化合物を合成し、光学的特性や光反応性を調査することで、BAEへのヘテロ原子の導入の影響を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以前我々は、2つのチオフェン環をホウ素原子で架橋した三環性骨格を、二重結合によって連結したBAE分子であるdDTCB(Chem. Commun., 2021, 57, 1316)を報告した。本研究ではdDTCBの二つの三環性骨格の片側を、別の骨格に置換した化合物の合成を目指している。 2022年度には、フルオレン、ジヒドロアントラセン、チオキサンテンなどの三環性骨格を導入した三つの化合物を合成し、その物性を評価した。BAEの配座異性体の熱力学的安定性は、三環性骨格の剛直性に大きな影響を受ける。新規に合成した化合物では期待通り、導入したユニットの剛直性に依存して、異なる配座異性体が得られた。例えば剛直なフルオレン骨格を導入した化合物ではtwisted体が、柔軟なチオキサンテンユニットを導入した化合物ではfolded体が安定であった。特にチオキサンテンのように硫黄などの高周期の元素を導入すると、長いC-E(高周期元素)結合によって骨格が柔軟になるため、folded体が相対的に熱力学的に安定になることがわかった。 一方で上記の新規に合成したBAEの内、ジヒドロアントラセンやチオキサンテンなどの六員環からなる三環性骨格を導入したBAEでは、溶液中で光環化反応が進行することも明らかになった。この光環化反応はルイス塩基性の溶液中で促進されることから、ホウ素中心への溶媒分子の配位が環化反応を促進していることが示唆される。得られた化合物をHPLCによって単離すると、CDスペクトルの測定から、ヘリシティを有することが明らかになった。このようにBAEの光環化反応を利用することで、ヘテロ元素を導入したヘリセン化合物を得ることにも成功した。 また高周期のケイ素原子を導入した、メカノクロミック特性を示すBAEも合成した。これまでに得られた分子設計指針とDFT計算を組み合わせることで、メカノクロミズム特性を示す新奇な元素ハイブリッド型BAE分子の創出に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までのところ、dDTCBの三環性骨格を別のユニットに置換した種々のBAEの合成に成功しており、研究は概ね計画通りに進行している。今後はメカノクロミック特性を示すホウ素とケイ素をハイブリッドしたBAE分子についてより詳細な調査を行うとともに、ケイ素上の置換基などを変更した化合物の合成を検討する。またBAEの光環化反応を利用して、元素ハイブリッド型の新奇なヘリセンや多環芳香族などの合成も検討する予定である。さらにホウ素と窒素をハイブリッドした、酸や塩基に対して応答性を有するベタイン型のBAEの分子についても合成を検討したい。
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