研究課題/領域番号 |
22K14673
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高野 秀明 名古屋大学, 高等研究院(工), 助教 (60883072)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | ビスホスフィン配位子 / 非対称配位子 / ラジカル反応 / 計算科学 / 触媒的不斉合成 |
研究開始時の研究の概要 |
ビスホスフィンは、遷移金属錯体のキレート型二座配位子として機能する、有機金属化学上非常に重要な化合物である。なかでも、二つのリン原子の環境が異なる非対称ビスホスフィン配位子は、その環境の違いにより金属錯体の性質を精密に制御することで高活性な金属触媒の創出が期待できる。しかしながら、非対称ビスホスフィン配位子の合成法は非常に限られていることから、本研究課題ではそれらの簡便合成法の開発を推進する。また、不斉触媒を用いることで光学活性な非対称ビスホスフィン配位子の開発も行う。
|
研究実績の概要 |
1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(DPPE)は二座の配位子として機能する有用な有機リン化合物である。また、左右のリン原子上に異なる置換基を有する非対称DPPEは、左右の置換基の違いにより配位した中心金属の電子状態や立体的な環境を緻密に制御可能であるため、それを用いた新反応開発が期待できる分子群である。しかし、その簡便な合成法は現在まで報告されていなかった。本研究では人工力誘起反応(AFIR)法を用いて逆合成的反応経路探索を行い、DPPEを計算機上で分解した。その結果、DPPEはエチレンとジホスフィンより与えられることが示唆された。その計算による予測を基に反応条件の検討を行ったところ、ホスフィンオキシド、クロロホスフィン、エチレンの三成分を用いることで、光照射下反応が円滑に進行し目的とする非対称DPPEを高い収率で得ることに成功した。この反応は広い官能基許容性を有しており、また得られた非対称DPPEは遷移金属錯体への応用も可能であった。 またエチレンだけではなく[1.1.1]プロペランを用いた場合でも同様の反応が進行し、ビシクロ[1.1.1]ペンタン(BCP)骨格を有するビスホスフィン配位子を得ることに成功した。このビスホスフィン配位子は二つのリン原子が直線状に配置しているため、二座配位子としては機能せず、架橋配位子として機能することが想定された。そこで、得られた配位子と各種金属塩の反応を行うことで、二核金属錯体及び配位高分子の合成に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
人工力誘起反応法に基づく計算科学による予測を元にして、エチレンやプロぺランを用いた三成分反応により二座配位子であるDPPEやビシクロ[1.1.1]ペンタン骨格を架橋構造にもつビスホスフィン配位子など多様な対称および非対称ビスホスフィン配位子の合成に成功した。また、開発した新反応に対して、密度汎関数理論による理論計算と実験化学を組み合わせることで反応機構に関する検討を行い、通常禁制遷移であるS0-Tn遷移が反応において重要な役割を担っていることを明らかにした。加えて、得られた生成物を遷移金属錯体の配位子として利用し、配位子の非対称性が与える影響に関しても実験化学的かつ理論化学的に議論を行い、通常の対称配位子をもつ錯体と非対称配位子をもつ錯体の比較を行った。現在までに得られた結果はすでに2報の論文発表をはじめとして、特許申請や国内外の学会で発表を行なった。 以上の点で本研究は概ね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き開発した三成分反応を用いて様々な架橋構造を有する対称および非対称ビスホスフィン配位子の簡便合成法の開発を行う。具体的には、プロぺランやベンザインなど分子内に大きな歪みを有する化合物の歪み解消を駆動力として三成分反応を行い、目的とするビスホスフィン配位子の合成を狙う。また得られた化合物を配位子として用いて新規遷移金属錯体の合成を行い、さらにそれらを用いた新規触媒反応の開発と、配位高分子や金属-有機構造体(MOF)の合成を行い、新しく開発した反応とその生成物であるビスホスフィンの有用性を高める。 また、開発した三成分反応はラジカル機構を経由する反応であり、その技術を応用すれば、リン原子をラジカル中心とする活性種を有機分子に付与し、新たな機能を有する化合物を創生する新反応の開発も推進することが可能である。そこで、リンラジカルを用いたラジカル反応による芳香族および反芳香族分子の新規官能基化反応の実現を目指す。
|